陰キャな彼と高飛車な彼女 隠された裏の顔
第5章: 永久報酬代
『チーン』という音と共にエレベーターが止まり、二人は屋上サンルームへ足を踏み入れた。ガラス越しに夜景が広がり、テーブルと椅子、そして自動販売機が並ぶその空間は、屋上の一部を切り取ったような憩いの場だった。
二人は向かい合わせに腰を下ろす。缶コーヒーを手にした瞬間、かすかな沈黙が流れる。お互いに、話さなければならないことがあるのを分かっていた。
やがて星川が口を開いた。
「……最初に書いたのは、大学の頃だ」
フッと短く息をはき、言葉を続ける。
「うちには年の離れた姉貴がいてさ。恋愛小説ばっか読んでたんだよ。部屋に転がってるのを何度か見て……それを読んだのが始まり」
苦い笑みが口元に浮かぶ。
「それで思ったんだ。『俺でも書けんじゃないか』って。軽い気持ちだった……。
それが、『天城セイラ』になったきっかけだ。……あれ、俺だ」
缶を握る夏來の指先が小さく震えた。胸の鼓動が速まるのを止められない。聞きたいことは山ほどあるのに、妙に喉が渇いて言葉が出ない。ただ視線を落とすしかなかった。
星川は続けた。
「大学の頃、ストーカーされたんだ。同じ学校のやつにバレて……。助けてくれたのは親友の九条冬万だ」
缶を指でトントンと軽く叩きながら、淡々と話す。
「冬万が知り合いの弁護士・伊集院涼介先生を紹介してくれたんだ。ひと月もしないうちに全部片付いた。その間は安全のために九条の家に世話になってた」
そこで一息つき、コーヒーを口に含んだ。
「……だから顔は出さない。二度と、あんな目には遭いたくないから」
短い沈黙のあと、夏來がぐっと缶を握り締めた。
「……あんたのことは、あたしが守るんだからね。変な真似したら許さない。だから安心して、これからも物語を書きなさいよ」
その一言は、普段の軽口とは違って、思いのほか真っ直ぐに響いていた。
次の瞬間、二人は同じタイミングで缶を傾けた。合わせたわけでもないのに、不思議なほどぴたりと重なる。
星川がふと笑った。
「……で? なんでお前、俺のこと拡散しなかったんだ。SNSで騒ごうと思えば、いくらでもできただろ」
夏來は一瞬だけ彼を見返し、すぐに顔をそむける。
「……そんなの決まってんじゃない!」
缶を指でいじりながら吐き捨てるように言った。
「雑誌のインタビューで読んだもの。顔は出さないって。……あんた、あたしの推し活なめてんの? 推しを売るわけないでしょ! そんなこと絶対しない!」
星川はわずかに笑い、缶を置いた。
「……バカか」
ふっと口元をゆがめる。
「……いいネタが浮かんだ。『流星5に推しかけてくる女』って番外編でも書こうかな」
「ちょっ……なにそれ! あたしのことでしょ!? だったらモデル料ちょうだいよ。アルバイト代でもいいけど!」
二人は向かい合わせに腰を下ろす。缶コーヒーを手にした瞬間、かすかな沈黙が流れる。お互いに、話さなければならないことがあるのを分かっていた。
やがて星川が口を開いた。
「……最初に書いたのは、大学の頃だ」
フッと短く息をはき、言葉を続ける。
「うちには年の離れた姉貴がいてさ。恋愛小説ばっか読んでたんだよ。部屋に転がってるのを何度か見て……それを読んだのが始まり」
苦い笑みが口元に浮かぶ。
「それで思ったんだ。『俺でも書けんじゃないか』って。軽い気持ちだった……。
それが、『天城セイラ』になったきっかけだ。……あれ、俺だ」
缶を握る夏來の指先が小さく震えた。胸の鼓動が速まるのを止められない。聞きたいことは山ほどあるのに、妙に喉が渇いて言葉が出ない。ただ視線を落とすしかなかった。
星川は続けた。
「大学の頃、ストーカーされたんだ。同じ学校のやつにバレて……。助けてくれたのは親友の九条冬万だ」
缶を指でトントンと軽く叩きながら、淡々と話す。
「冬万が知り合いの弁護士・伊集院涼介先生を紹介してくれたんだ。ひと月もしないうちに全部片付いた。その間は安全のために九条の家に世話になってた」
そこで一息つき、コーヒーを口に含んだ。
「……だから顔は出さない。二度と、あんな目には遭いたくないから」
短い沈黙のあと、夏來がぐっと缶を握り締めた。
「……あんたのことは、あたしが守るんだからね。変な真似したら許さない。だから安心して、これからも物語を書きなさいよ」
その一言は、普段の軽口とは違って、思いのほか真っ直ぐに響いていた。
次の瞬間、二人は同じタイミングで缶を傾けた。合わせたわけでもないのに、不思議なほどぴたりと重なる。
星川がふと笑った。
「……で? なんでお前、俺のこと拡散しなかったんだ。SNSで騒ごうと思えば、いくらでもできただろ」
夏來は一瞬だけ彼を見返し、すぐに顔をそむける。
「……そんなの決まってんじゃない!」
缶を指でいじりながら吐き捨てるように言った。
「雑誌のインタビューで読んだもの。顔は出さないって。……あんた、あたしの推し活なめてんの? 推しを売るわけないでしょ! そんなこと絶対しない!」
星川はわずかに笑い、缶を置いた。
「……バカか」
ふっと口元をゆがめる。
「……いいネタが浮かんだ。『流星5に推しかけてくる女』って番外編でも書こうかな」
「ちょっ……なにそれ! あたしのことでしょ!? だったらモデル料ちょうだいよ。アルバイト代でもいいけど!」