陰キャな彼と高飛車な彼女 隠された裏の顔
 エレベーターの奥に進み、腕を組んだまま、無言で背をあずける。ボタンを押す里桜の背中を、ゆっくりとなぞるように視線で追い、決して外さない。

 (いつ見ても野暮ったい子。着ているものも安っぽいし……あのバッグも、まるでフリマで買ったみたい)

 口角をわずかに上げて、バカにするように笑みを浮かべる。


 一方里桜はドア横に立ち、階数表示を見上げていた。

 (……早く着かないかな)

 背中に突き刺さる冷たい視線。居心地の悪さにバッグの紐を握る手に力が入る。指先のリングをとっさに右手で覆った。

 夏來は、無言のまま蛇のような眼差しを送り続ける。

 (本当、華も何もない子。でも主任と同じ課にいるだけで目障りなのよ。あたしとは比べ物にならないくせに)

 里桜は数字が切り替わる階数表示を必死に追い、視線を合わせまいとする。

 (麻生さんに見られたら……まずい)

 重苦しい沈黙の中、エレベーターが六階に到着。里桜は右手で『開』ボタンを押しながら、左手はバッグと体の間に不自然に隠した。


 「あ、麻生さん。お先にどうぞ」


 軽く会釈する里桜。その横を当然という態度で、勝ち誇ったような目で見下ろしながら、夏來は降りる。ヒールの音を響かせる後ろ姿を見送り、里桜は胸を撫で下ろした。



 営業部に入った夏來は気分を取り戻し、今日訪問する会社のプレゼン内容を確認している。新規開拓した契約に向けて意気込みを燃やしていた。

 (準備は完璧。あとは契約をものにするだけ。……そうだ、外回りの前に松本主任に会って、食事の約束を取りつけなきゃ!
早く、朝礼終わらないかな……)

 窓の外を見ると、厚い雲が空を覆い始めていた。今朝見た秋晴れは、もう灰色に変わっている。まるでこれから起こることを予測しているかのように。
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