陰キャな彼と高飛車な彼女 隠された裏の顔
午後五時、帰宅ラッシュが始まる前の時間帯。新しい契約も無事に成立し、外回りを終えたはずなのに──夏來の足取りは重かった。
(ハァァ〜〜……)
朝礼で部長から告げられた事実。それは経理部経費管理課の松本主任と、新條里桜が週末に入籍したという知らせだった。
(えっ、なんで? 嘘でしょう……?)
心臓をつかまれたような衝撃。だが動揺を悟られないよう、努めて平然を装う。トートバッグを握る手はかすかに震え、口元も引きつる。ふと気配を感じて周囲を見ると、数人の同僚が『慰め』に見せかけた好奇の視線を送っていた。
夏來が松本主任にしつこくアタックしてきたのは、社内では有名な話。
(な、何よ! きっと『ざまあみろ』って思ってるんでしょう? 本当に性格悪い連中……)
居たたまれず、朝礼が終わるや否や早足で外回りに出た。
会社へ戻る途中、大きな池のそばで気が緩んだ。小さな段差に気づかずつまずき、かばんを歩道に打ちつけてしまう。手のひらに浅い擦り傷。派手に転んだわけではないが、胸の奥にできた傷は誰にも見せられないほど深かった。
慌てて立ち上がりバッグの中を確認すると、タブレットのスクリーンにはヒビ。
(ああ、最悪……なんで何もかも上手くいかないのよ!)
漆黒の苛立ちと悲しみの渦に、引き込まれそうになる。だが無意識に口の中で流星5の歌を紡いでいた。
――流れ星を追いかけ
アニメライブでの記憶が蘇り、少しずつ落ち着きを取り戻す。
エレベーターホールに着くと、ちょうどドアが閉まるところだった。
(ハァァ……とことんツイてないわね)
落胆しつつトートバッグを開け、タブレットのヒビを指でなぞる。そのとき内ポケットに目が留まり、無意識にチャックを開ける。
取り出したのは──昨日買ったばかりのセイのキーチェーン。
(セイ君だけは裏切らない。絶対に。……うん、大丈夫。だってあたしは最強運がいいんだから!)
口元に小さな笑みを浮かべ、右手でキーチェーンを胸元に寄せる。フーッと息を吐いた。
チーン
エレベーターが戻り、ドアが開く。
夏來は軽く頷き、仕事モードに切り替える。仕事のできる女・『タカビー麻生』へと。押したボタンは七階。キーチェーンをそっと内ポケットに戻す。
(ハァァ〜〜……)
朝礼で部長から告げられた事実。それは経理部経費管理課の松本主任と、新條里桜が週末に入籍したという知らせだった。
(えっ、なんで? 嘘でしょう……?)
心臓をつかまれたような衝撃。だが動揺を悟られないよう、努めて平然を装う。トートバッグを握る手はかすかに震え、口元も引きつる。ふと気配を感じて周囲を見ると、数人の同僚が『慰め』に見せかけた好奇の視線を送っていた。
夏來が松本主任にしつこくアタックしてきたのは、社内では有名な話。
(な、何よ! きっと『ざまあみろ』って思ってるんでしょう? 本当に性格悪い連中……)
居たたまれず、朝礼が終わるや否や早足で外回りに出た。
会社へ戻る途中、大きな池のそばで気が緩んだ。小さな段差に気づかずつまずき、かばんを歩道に打ちつけてしまう。手のひらに浅い擦り傷。派手に転んだわけではないが、胸の奥にできた傷は誰にも見せられないほど深かった。
慌てて立ち上がりバッグの中を確認すると、タブレットのスクリーンにはヒビ。
(ああ、最悪……なんで何もかも上手くいかないのよ!)
漆黒の苛立ちと悲しみの渦に、引き込まれそうになる。だが無意識に口の中で流星5の歌を紡いでいた。
――流れ星を追いかけ
アニメライブでの記憶が蘇り、少しずつ落ち着きを取り戻す。
エレベーターホールに着くと、ちょうどドアが閉まるところだった。
(ハァァ……とことんツイてないわね)
落胆しつつトートバッグを開け、タブレットのヒビを指でなぞる。そのとき内ポケットに目が留まり、無意識にチャックを開ける。
取り出したのは──昨日買ったばかりのセイのキーチェーン。
(セイ君だけは裏切らない。絶対に。……うん、大丈夫。だってあたしは最強運がいいんだから!)
口元に小さな笑みを浮かべ、右手でキーチェーンを胸元に寄せる。フーッと息を吐いた。
チーン
エレベーターが戻り、ドアが開く。
夏來は軽く頷き、仕事モードに切り替える。仕事のできる女・『タカビー麻生』へと。押したボタンは七階。キーチェーンをそっと内ポケットに戻す。