残念令嬢、今世は魔法師になる
「ミレアー!」

 両親の声がして、私はハッとした。
 そうだ。黙って離れてしまったことを今さら思いだす。
 父と母は青い顔をして駆けつけて、母がしゃがみこんで私を抱きしめた。

「ああ、ミレア。探したのよ」

 母の背後で父も不安げな顔をしている。
 私はひとりで行動できると思って勝手に動いてしまったけれど、両親からすれば完全に迷子だよね。しかも体が弱くてあまりひとりで外出したことのない娘なのだから、相当不安にさせてしまっただろう。

「心配したのよ。あなたにもしものことがあったら、どうすればいいの?」
「ごめんなさい」

 母の胸に額を当てると鼓動の音が伝わってきた。
 申し訳ない気持ちと安堵した気持ちが一気に押し寄せて胸がぎゅっと苦しくなった。

「よかったわね。じゃあ、私はこれで」

 そう言って立ち去ろうとするカイラに、私は慌てて声をかけようとした。
 だけど、彼女はすでに背を向けて歩きだしている。
 その背中は寂しげで、儚げだった。
 何も知らない私ならきっと、思いきり声を出して礼を言い、手を振ってさよならをしただろう。

 だけど、今の私はカイラにこれ以上声をかけることはできなかった。

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