囚われの聖女は俺様騎士団長に寵愛される
 悩んでいると
「隊長!やっと見つけました!」
 先ほどの騎士の声が聞こえた。

「ああ。魔導師と戦っていた」

「その様子だと勝てたみたいですね。さすがです。あれ?この女性は?」

「ああ。いろいろあって」

 チラッと目が合った。監獄に居たとなれば、詮索されるに違いない。
 どうしよう、なんて説明をすればいいの。

「こちらのレディは俺が預かる。ケガもしているみたいだ。お前たちは上層部に報告を。クライトン家は全焼と崩壊。オスカー・クライトンもこの崩壊によって死んだ。俺が見ている」

 崩壊によって死んだ?
 自分が殺したとは言わないのね。

「はい。わかりました。とりあえず捕まえた執事長にオスカー・クライトンが行っていた情報漏洩や闇貿易、賄賂等について知っているか聞いてみます。クライトン家の一族にも。生きて捕まえた奴等は裁判にかけられるんでしょうけれど。皇帝に逆らったとして極刑でしょうね」

 マーガレットは生きているのかしら。
 あの人がもし生きていれば、私の秘密をきっと話して極刑を免れようと命乞いをするのでしょうね。

 彼の部下が去ったあと、二人きりになった。

「お前、隙を見て逃げ出して、自害しようとしているだろ?」

 考えていたことを唐突に言われ戸惑う。

「私には何も残されていません。生きる希望もありません。帰るところも。だから……」

「生きる理由がないから、死のうと言うのか?」

 彼の問いに何も答えられなかった。
 正直、これからの人生なんて全く予想がつかない。

「先ほどの願いの話だが……」

 願い?
 ああ、私をおろしてくれたらって約束したわよね。

「はい」

 お金も持っていないし、この人は騎士団長。名誉も力もある人。
 何を望むのだろう。


「俺のために生きろ」

 えっ。俺のために生きろ?

「せっかく与えられた命なんだ。生きる理由がないというのなら、俺が作ってやる。俺のために生きろ」

 この人、本気で言っているの。

「私が約束を守るとでも?」

「約束は守ってくれる。俺は信じる」

 今日はじめて会ったのに。
 どうしてこんなにこの人のことを頼りたくなるんだろう。
 言葉の魔法でもかけられているのかしら?

「お前の事情は帰ってからゆっくり聞く。監獄の中にいた理由も。罪人ではないことくらいわかる。心配するな」

 ああ、この人なら――。
 信じてもいいのだろうか。

「はい」

 私が返事をすると、彼はコクンと力強く頷いてくれた。
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