悪役令嬢が多すぎる〜転生者リナの場合〜
その10
その後、リナとエリーゼの面談を繰り返した悪役令嬢たちは、アドバイスをもとに己の生き方を見直し、うち何名かは転職活動を始めた。
カルロッタ・デ・メディチ子爵令嬢はシェフになり、庶民街でイタリア料理店を開いた。元悪役令嬢が作るイタリア料理としてすでに話題になっている。店の看板メニューはミートソースパスタ。お忍びでフェルナンド騎士団長も通っているらしい。通りが見渡せる良席でなく、いつも厨房に一番近い奥の席を選ぶのだとか。
マルゴー・ドゥ・ポンパドール侯爵令嬢は、若手悪役令嬢のコンサルタントに転身した。悪役令嬢という生き方を見直すブームが盛り上がる一方で、憧れのゲームの世界に転生したからには悪役令嬢にトライしてみたいというフレッシュな新人たちもいる。マルゴーはベテランとしての経験を生かし、そんな令嬢たちの教育を担っている。定期的な労働環境調査に加え、引退時期を自分で決められる制度の充実など、悪役令嬢としての業務改善にも力を入れている。
エリーゼ・フォン・ハプスブルクは、本好きな面と貴族女性としての教養を生かし、王立図書館の司書に転職した。前世でも同じ職業だったことから、この世界にはなかった十進分類法を取り入れ、図書館業務の効率化に貢献している。実は読書家だったフィリップ王子が足繁く通い、司書役にいつもエリーゼを指名しては歓談しているらしい。彼の誕生日パーティは来週だ。
こうした転職支援が功を奏し、悪役令嬢の数は当初の52名から15名の適正規模にまで縮小した。ヒロイン候補たちも大量の悪役令嬢に埋もれることなく自信を持って活動を再開でき、ヒーローたちも青春時代ならではのピュアな恋愛を楽しめるようになった。
そしてリナは、というと、相変わらず今日も本屋の店番である。ただ、本来の「賢者の本棚」の看板の隣には、新たな看板が掲げられた。
「人生相談カフェ」という看板目指して、今日も元悪役令嬢たちがやってくる。
「リナ、いる? ロマンス小説の新刊が入荷したって聞いたけど」
「はい、届いてますよ、エリーゼ様」
「リナちゃん、久しぶり! お店がお休みだから遊びにきちゃった。これ、あたし手作りのティラミス。差し入れだよ」
「わぁ、ありがとうございます、カルロッタ様」
「リナさん、こんにちは。お店に掲示してもらいたいポスターがあるんです。このたび、悪役令嬢協定の名前を多様性推進協定に改名しますの。そのお知らせですわ」
「いらっしゃいませ、マルゴー様。今、お茶を入れますね」
3名の元悪役令嬢たちがかまびすしく話し出す。新たな人生のスタートを切った彼女たちの道のりは、まだまだこれからである。
【ある日のリナの日記】
昨日の王城のパーティで、フィリップ王子がエリーゼ様にプロポーズしたとのこと。エリーゼ様は磨きをかけた高笑い——ではなく、彼女らしい朗らかな笑顔でイエスと答えたそう。これこそがピュアな恋愛模様。悪役令嬢が多過ぎた時代も、今となっては懐かしい——。
カルロッタ・デ・メディチ子爵令嬢はシェフになり、庶民街でイタリア料理店を開いた。元悪役令嬢が作るイタリア料理としてすでに話題になっている。店の看板メニューはミートソースパスタ。お忍びでフェルナンド騎士団長も通っているらしい。通りが見渡せる良席でなく、いつも厨房に一番近い奥の席を選ぶのだとか。
マルゴー・ドゥ・ポンパドール侯爵令嬢は、若手悪役令嬢のコンサルタントに転身した。悪役令嬢という生き方を見直すブームが盛り上がる一方で、憧れのゲームの世界に転生したからには悪役令嬢にトライしてみたいというフレッシュな新人たちもいる。マルゴーはベテランとしての経験を生かし、そんな令嬢たちの教育を担っている。定期的な労働環境調査に加え、引退時期を自分で決められる制度の充実など、悪役令嬢としての業務改善にも力を入れている。
エリーゼ・フォン・ハプスブルクは、本好きな面と貴族女性としての教養を生かし、王立図書館の司書に転職した。前世でも同じ職業だったことから、この世界にはなかった十進分類法を取り入れ、図書館業務の効率化に貢献している。実は読書家だったフィリップ王子が足繁く通い、司書役にいつもエリーゼを指名しては歓談しているらしい。彼の誕生日パーティは来週だ。
こうした転職支援が功を奏し、悪役令嬢の数は当初の52名から15名の適正規模にまで縮小した。ヒロイン候補たちも大量の悪役令嬢に埋もれることなく自信を持って活動を再開でき、ヒーローたちも青春時代ならではのピュアな恋愛を楽しめるようになった。
そしてリナは、というと、相変わらず今日も本屋の店番である。ただ、本来の「賢者の本棚」の看板の隣には、新たな看板が掲げられた。
「人生相談カフェ」という看板目指して、今日も元悪役令嬢たちがやってくる。
「リナ、いる? ロマンス小説の新刊が入荷したって聞いたけど」
「はい、届いてますよ、エリーゼ様」
「リナちゃん、久しぶり! お店がお休みだから遊びにきちゃった。これ、あたし手作りのティラミス。差し入れだよ」
「わぁ、ありがとうございます、カルロッタ様」
「リナさん、こんにちは。お店に掲示してもらいたいポスターがあるんです。このたび、悪役令嬢協定の名前を多様性推進協定に改名しますの。そのお知らせですわ」
「いらっしゃいませ、マルゴー様。今、お茶を入れますね」
3名の元悪役令嬢たちがかまびすしく話し出す。新たな人生のスタートを切った彼女たちの道のりは、まだまだこれからである。
【ある日のリナの日記】
昨日の王城のパーティで、フィリップ王子がエリーゼ様にプロポーズしたとのこと。エリーゼ様は磨きをかけた高笑い——ではなく、彼女らしい朗らかな笑顔でイエスと答えたそう。これこそがピュアな恋愛模様。悪役令嬢が多過ぎた時代も、今となっては懐かしい——。


