寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
 誰がどう見ても生存は絶望的という場所から戻ってきた俺を、消防署の連中は英雄扱いした。
 だが、自分はそうは思わない。

「どうして……。なぜ、俺なんかを庇ったんですか……」

 隊長がいなくなったせいで、最愛の女性が嘆き悲しむ姿を見てしまったからだ。
 彼女にはいつだって、笑ってほしかった。
 なのに――俺の命と引き換えに、希美ちゃんの一番大事な人がいなくなってしまった。
 こんな状況ではいくらあの人に彼女を頼まれたとしても、一緒にいられるわけがない。
 お互い上司を思い出して苦しむことになるくらいなら。
 この恋心は誰にも打ち明けずに忘れ去るべきだ。
 だから――何度目かわからぬ謝罪を終えたあと、俺は彼女に伝えた。

「すまない。本当に……。もう二度と、会いに来るつもりはない。最後にそれだけを、伝えておきたかった」

 深々と頭を下げたのは、失敗だったかもしれない。
 彼女の姿を窺い知ることが、できなかったからだ。
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