寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
「まさかこのまま、逃げるの?」

 あの子の口からは、了承の言葉が聞こえてくるのだとばかり思っていた。
 しかし――こちらの思惑は、大きく外れた。
 希美ちゃんは悔しそうに唇を噛みしめながら目を伏せると、瞳を潤ませてぽつりと呟く。

「私はずっと前から、あなたのことが好きだったのに……」

 俺は信じられない気持ちでいっぱいだった。
 あんなことがあったのに、まだ自分を好いてくれるなど思いもしなかったからだ。

「俺も好きだよ」と言ってもいいのか。
「君のことは好きだったけど、そばにいる資格があるとは思えない」と断るべきか。

 こちらが複雑な表情を浮かべて判断に迷っていると、顔を上げた彼女は瞳の奥底に憎悪の炎を揺らめかせながら告げた。

「許さないから。このまま終わりにするなんて。あなたは生きて、償うの。お父さんが守った命を、粗末に扱わないで」

 嫌なことから逃げて1人だけ楽になろうとするなと説教をされて、目が覚めた。
 ――希美ちゃんから目を背けるんじゃなくて、向き合おう。
 あの人の代わりに彼女の成長を見守り、世界で一番幸せにしてやる。
 それこそが、俺ができる唯一の償いなのだから……。

「俺も、希美ちゃんを愛している。どうか、一生を賭けて償わせてほしい」

 こうして俺は、彼女と交際することになった。
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