寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
「あのね! ままがいない間、おじしゃんが遊んでくれたの!」

 母娘が引き離された際に起きた出来事を、夏希は別のスーパーで買い物をしている間に大興奮で捲し立てている。
 あんな恐ろしい体験をしておきながら、何事もなくはしゃげるなんて……。
 子どもは本当に神秘的な存在だ。

「おじしゃん、ままのこと助けてくれるって夏希に約束してくれたの。凄いひとなんだよ!」

 消防士と子守などいまいち結びつかないが、きっと既婚男性だったのだろう。
 子どもの扱いには慣れているんだろうなと勝手に解釈しながら話半分に聞いていた。

 ――眠い、疲れた、抱っこが始まる前に、帰らないと……。

 そんなこちらの想像を他所に、娘の大興奮は会計を済ませて食材をエコバックに詰め込んでも冷めやらなかった。

「あのおじしゃんが、夏希のぱぱだったらよかったのに……」

 ついには出会ったばかりの男性に対し、父親だったらよかったのになどと口にし始める。
 これはかなりまずい傾向だ。
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