寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
「きゃー! 高いー!」

 声を上げて喜ぶ夏希は、大人たちが醸し出す最悪な雰囲気を気に留める様子がない。
 子どもを人質に取られてしまった以上、あの子を放置してこの場から立ち去るわけにはいかなかった。
 私は顔面蒼白のまま、大嫌いな人の動向を伺い続ける。

「ああ……。やっぱり、気づいてなかったか」
「な、何……を……」
「俺は、すぐにわかった。何年経っても、愛した人の顔を忘れるはずがない。そうだろう? 希美ちゃん」

 先に声を発したのは、自分ではなく彼の方だった。

「6年ぶりだな」

 相変わらず無口で、何を考えているかよくわからない人だ。
 父親が亡くなるまではそういうところが大人っぽくて、いいなぁと思っていた。
 彼に対する感情は結局、あの事件をきっかけに憎悪へと変わってしまったが――。
 夏希を肩車している無表情の男は、片平武彦さん。
 関係を持った当初は、22歳だった。
 あれから6年近くが経過するため、今は28歳のはずだ。

 ――忘れない。
 何があっても、絶対に。
 この男の容姿と、情報だけは――。
< 31 / 65 >

この作品をシェア

pagetop