寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
「そうして悩むのは、いい傾向だ」
「ね、寝たんじゃないの!?」
「希美ちゃんの声が聞こえて起きた。音には、敏感なんだ。仮眠時でも、サイレンが鳴れば出動するからな」
「そ、そう……」

 驚く私の手首を掴んで逃げられないように拘束した彼は、胸元で小さく身体を丸めて眠る夏希を気遣ったのだろう。
 声を顰めつつ、顔を近づけながら声を発した。

「希美ちゃんはあまり、感情を表に出さないからな。憎悪が膨れ上がっていたら、どうしようかと思った」
「い、今のは忘れて……!」
「絶対に嫌だ」

 彼は案外、融通が利かないところがある。
 夫はむっつりと唇を閉ざして低い声で宣言すると、どこか寂しそうに目を伏せた。

「焦っているのなら、本心だろう。俺は、嬉しかった。君の内に秘めた思いを聞けて。二人で話せる時間は、限られているからな……」

 二人の間に生まれた子どもがいる以上、どうしても夏希が中心の生活となる。
 彼と結婚したことで私は仕事を頑張らなくてもよくなったけれど、夫はむしろこれからも働き続けなければならない。
 父親を包み込んだ炎が見知らぬ誰かを焼き焦がさぬよう、消し止めるために――。
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