寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
「まま? ここ、誰のお家?」
「おばあちゃんが暮らしているところだ」
「希美……っ!」

 今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいになっている私の代わりに夏希の質問に武彦さんが答えたあと、勢いよく扉が開く。
 そこから飛び出してきてこちらの名を呼んだのは、母だった。
 彼女は私を勢いよく抱きしめ、人目を憚ることなく大泣きし始める。

「あっ! 写真の人だ!」

 夏希にとっては、私がよく見ている写真に映っている人という認識しかないのだろう。
 指差しをしながら、己の存在を武彦さんにアピールしていた。

「この子は……?」
「俺達の、娘です」
「希美と、武彦くんの……?」
「はい」
「夏希。ご挨拶して。おばあちゃんだよ」
「片平夏希! 5歳!」

 私から身体を離した母はしばらく目を丸くしていたが、ようやく夏希が自分の孫だという認識ができたらしい。
 その場に恐る恐るしゃがみ、彼女を抱き上げた。

「よく来たわね。おばあちゃんと一緒に、遊びましょうか」
「うん!」

 元気いっぱいの返事をした夏希は、母とともにリビングに消える。
 ――こうして玄関には、夫婦だけが残された。
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