寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
 ――ずっと好きだった。
 愛していた人に憎悪をいだいていたはずなのに、一緒に暮らすようになったらもう駄目だ。
 まるでシンデレラにかけられた魔法が解けていくかのように、いつの間にか彼に絆されてしまう。

 ――面と向かって顔を合わせて生活をともにすれば、必ず再び好きになってくれるはず。
 そんな確信があったからこそ、武彦さんは私を迎えに来たのだろう。
 一杯食わされたと悔しがったところで、どうにもならない。
 ならば夏希のために、抗うことなく受け入れるべきだ。
 彼が己の夫であるという、その事実を……。

「すいかー!」

 互いしか見えていなかった夫婦は、夏希の元気な声が聞こえてきた瞬間我に返る。

 ――こんなところを見られたら、夏希の教育に差し障る。
 私は彼を突き飛ばしてでも距離を取ろうとしたけれど、鍛え抜かれた上半身はどれほど引き剥がそうとしたところでびくともしなかった。

「ぱぱ、まま。らぶらぶ……?」
「ああ。そうだ」
「なかなおりしたの!?」

 両親の醸し出す不穏な空気は、夏希にも伝わっている。
 だからこそ、もうあのような光景を見なくて済むんだと大喜びした子どもは大声で武彦さんに問いかけた。
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