死亡エンドを回避していたら、狂愛キャラが究極のスパダリになってしまいました!?


「婚約式ではあまり言葉を交わせませんでしたが……小公爵様の本意でなければ、婚約の解消も私は受け入れます。あなたを縛り付けるつもりはありません」

 瞬間、こちらを見つめる赤い瞳がわずかに開かれる。

「おかしいな。勘違いでなければ、君は俺との婚約に積極的な様子だったはずだけど?」

 そう言われて思わず内心「ん"ん"ん"」と唸る。
 とはいえ、婚約式の時の私の様子を見れば誰だって思うだろう。

「婚約式の場では、気が昂って冷静さに欠けていたといいますか……事故で背中に消えない傷跡ができてしまいましたし、こんな体では公爵家に嫁ぐことも憚られると考えました」

 即興での理詰めにしては上出来だと自分を褒めたい。

 実際のところ普段は晒すことのない背中傷なんて、これっぽっちも気にしていないわけだけど。

「そう。それが君……エリザの本心だったというわけだね」
「ええ、ですので」

 もう一押しだと思わず前のめりになりながら、肩にかけていたショールの端をぎゅっと掴んだ時である。

「……ふっ」

 不意に、シルヴァンは笑みを深めた。

 婚約式の記憶を探っても見当たらない、おそらく私に見せるのは初めてであろう表情。

 どことなく楽しげで、可笑しそうに。
 私をじっと見据えて彼は小さく微笑んでいた。

(あれ、なんか、ちょっと様子が)

 室内に入ってきたときにはなかったはずの瞳の変化に、私は嫌な予感を察知する。

「解消は、ひとまず保留かな」
「え!? それは、どういうっ」

 慌てる私をよそに、シルヴァンは機嫌良さそうな面持ちを崩そうとはしない。

「婚約式の時と同じく俺を盲目的に見るような子だったら、その提案もありかと思っていたんだけどね。少し、気が変わった」
「気が、変わった……」
「今日のところは引き上げるとするよ。また後日話そう――エリザ」

 どことなく機嫌をよくしたシルヴァンは、軽く片手をあげて部屋を出ていった。

 私は引き止める暇もなく呆然とその背中を見送るしかできなかった。

(……名前、呼ばれなかった?)

『乙愛』でシルヴァンは、気が昂ったエリザを宥めたり言うことを聞かせる時にだけ、エリザの名前を甘く囁いた。

 それにコロッと流されるのもどうかと思っていたけれど、つまりシルヴァンはエリザを名前では呼ばずにほとんど「君」で通していた。

 だというのに、今回最後の最後で名前を呼ばれた。その意味がわからず、私はわなわなと震えてしまう。

(婚約解消も保留と言われ、また後日話そうって……もしかして私、失敗した?)

 てっきりこちらが婚約解消をチラつかせれば快く頷いてくれると思っていたというのに。

 予想外の展開に、私は呆気に取られるほかなかった。

 
< 5 / 6 >

この作品をシェア

pagetop