呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~

第23話 波音に響く甘やかな誘惑

 ざざ……と、音を立てる波は行ったり来たり。
 波打つ水面に一直線に描かれた月明かりの道に満天の星。それは圧巻の光景としか言いようもない。

「ねえ……この海はいったいどこまで続いているの?」

 浜辺を歩みながら、ふとした疑問を口にすると、ミランは立ち止まり、水平線の彼方へ視線を向けた。

「それは俺も分からない。ベルは知らないかもしれないが、ヴェルメブルグ周辺にはこんな近くに海なんてない。地形は似ているが、何をもって先祖たちがこんな近くに海を設けたのかも分からないがな」
「そう、貴方でも知らないのね」

 ベルティーナも同じように三日月の浮かぶ水平線の彼方に視線を向けた。

「ただ、こんな逸話があってな……」

 そう言ったミランに、ベルティーナが眉をひそめて一瞥すると、彼もわずかに視線を向けた。

「俺が子どもの頃、叔母のマルテさんから、この海の果ては表にある人の世界ヴェルメブルグの〝どこか〟と冥府に繋がる二つの門があるって、そんな逸話を聞いたよ」

 ミランの言った言葉にベルティーナはさらに眉をひそめた。

「まあ、逸話だから事実でもないでしょうが。海に門? 確かに、ヴェルメブルグに向かう道が一つだけとは限らないから、それはありえそうね。だけど冥府だなんて……」

 ──冥府とは死者の向かう場所。それは人間も共通の認識を持っている。
 そこで冥府の王の審判を受け、天国に昇るか地獄に墜ちるかと言われているものだ。

 同じ信仰でもその諸派によって考え方も違うものらしいが、特定の神に対する信仰がなく、夜や闇を信仰する魔性の者たちにもこの概念があったのかと思うと、少しばかり不思議に思えて、ベルティーナは小首を傾けた。

「当たり前のように俺たちにだって死はある。人間は死ねば天使になるとか星になるとか言われてるみたいだが、俺たちの死後は夜空に瞬く星になると言い伝えられている。魔性の者は死んだら、まずは死者の向かう先、冥府に辿り着くとされている。俺たちの先祖は元々人間と同じ世界に住んでいたから、冥府の概念があるのはその名残かもしれない」

 それを聞いて、ベルティーナは納得してしまった。
 しかし、一つだけ疑問が残るもので……。

「ねぇ。そんな人間を貴方たちはどう思うの?」

 率直な疑問を投げかけてみると、ミランは驚いたのか、幾度も(まばた)きをした。

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