呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
(おばあさま。私は、貴女の言う小賢しいほど聡い娘になれているのかしらね)

 心の中で独りごちて、ベルティーナは瞼を持ち上げた。

「じゃあ、行ってくるわね。おばあさま」

 ──今までありがとう。と消え入りそうな声で付け添えて、杖に会釈したベルティーナは、燭台の炎を吹き消した後、塔を下りた。

 ***

 庭園の出口──蔓薔薇の絡みついた鉄門まで歩むと、そこには数人の使用人と騎士らしき男が待ち構えていた。
 ベルティーナが歩み寄れば、騎士らしき男は門を開き、丁寧な所作で彼女を出迎えた。

「離れの方へ参ります」

 簡潔にそれだけを伝え、騎士はベルティーナに手を差し出す。また、傍らに寄り添った使用人の男が荷物を持つと言うが、彼女はすぐに唇を曲げた。

「結構よ。一人で歩けるし、荷物も持てるわ」

 冷たく言い放ったベルティーナに、彼らは困惑した顔を見合わせる。だが、すぐに彼らは承諾し、ついてくるように言い渡した。

 庭園を出たのは初めてだ。初めて踏み出した外の世界だが、そこには大きな感動はなかった。
 無表情の顔を貼り付けたまま、彼女は先行く騎士を軽やかな足取りで追いかける。

 そうして間もなく、辿り着いた離れを目の当たりにして、ベルティーナはすぐに目を細めた。

 それは、まるで宮殿のよう。神話上の神々の石像が外壁に沿うように数多く立ち、豪華絢爛としか言いようがなかった。

 豪奢な柱で支えた玄関ポーチの下をくぐり抜け、広間に差し掛かって間もなく、角の部屋に通されると、男の騎士と使用人は退き、三人の女使用人だけが残った。
 そこには、さきほど自分を呼びに来たハンナと名乗った使用人の姿もある。

 ハンナは先ほどに比べて呼吸も落ち着いた様子ではあるが、依然として顔色が優れなかった。しかし、顔色が優れないのは三人とも同じだろう。彼女たちは皆、青白い顔をして俯いていたのだから……。

「それではベルティーナ様、湯浴みに……」

 ハンナがおどおどとした口調で切り出し、ベルティーナは頷いた。

 そうして湯殿(バーデン)に案内されたのだが……脱衣所に来て早々、女使用人たちが寄ってたかってワンピースを脱がそうとするので、ベルティーナはすぐに抵抗した。

「何をするの!」
「な……何をって、湯浴みのお手伝いを」

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