呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 女使用人たちは怯えた表情を貼り付け、一歩後ずさる。

「……出て行って」

 目の縁を鋭く尖らせて言い放てば、彼女たちは気圧されたようにさらに二歩三歩と退いた。

「貴女たち。私が王女らしい扱いなどされてこなかったことなど存知よね? 一人で身体も髪も洗えるわ。結構よ。出て行って頂戴」
「ですが……」

 それでも上からの命と言いたいのだろう。彼女たちはおずおずと言葉を出す。

 だが、ベルティーナは無表情のまま首を振って「出なさい」と刺すように突っぱねた。

 そうして一人、ベルティーナは湯浴みに向かったのだが……その空間があまりに煌びやかなもので、何度も(まばた)きをした。

 ──そこは、白を基調とした浴室だった。
 何を支えているかも分からない飾り柱には金の蔦が絡みつき、巨大な浴槽には薔薇の花がたくさん浮いている。

 薔薇の匂いは好きだが……限度というものがあるだろう。
 それはもう、むせ返るほど。甘ったるい香りが充満し、まるで落ち着いた入浴もできず、髪と身体を洗い終えたベルティーナは、少しばかり湯に浸かるとすぐに脱衣所に(きびす)を返した。

 そうして脱衣所に戻ると、洗面台の上にはメモ書きと一緒に遮光瓶が置かれていた。

「この香油を身体に塗って肌を整えてくださいませ……下着とアンダードレスをお召しになりましたら、どうぞお呼びください。ドレスの着用をお手伝いいたします」

 ベルティーナはその文を淡々と読み上げた後、衣紋掛けに吊されていたドレスに目を向ける。
 そこにあったのは、まるで濡れたカラスの羽のよう、青光りした漆黒のドレスだった。
 一見しただけでは、喪服のようにも見えるだろう。それでも、繊細な刺繍とレースをふんだんに施し、たくさんの紫水晶を散りばめた贅沢なものだった。

(いかにも魔性の者を彷彿させる闇色ね)

 そう思いつつ、香油瓶を開けた瞬間──ベルティーナは目をさらに細める。
 今度は、ラベンダーとバニラに蜂蜜でも混ぜたかのような、頭がクラクラするほどの甘ったるい香りだった。
 こんな甘ったるいものは当然付けたくもない。
 ベルティーナは舌打ちしながら瓶に栓をする。

(王族は毎日こんな享楽的な暮らしをしているのかしら……)

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