呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 現在の自分が彼に対して愛情があるかどうかはさておき、婚姻に対しては依然として抵抗がまったくなかった。だが、思う。むしろ拉致騒動以来、好意はある方だとは思う。

 ぼんやりと湯船でそんなことを考えつつ、ベルティーナは目を閉じた。

 それから入浴を済ませたベルティーナが部屋に戻ると、同じように入浴を済ませたのか、簡素な服を身に纏ったミランがソファに座っていた。

 外はもう明るいもので、燦々とした日差しが窓から溢れていた。
 しかし、今日は一緒に出かけたばかりで、また会うのも不思議な気がして仕方ない。とはいえ、眠る前に共に過ごすことが日課なもので、彼が部屋にいたとしてもさほど違和感は感じなかった。

「今日くらいは自分の部屋で早めに休めばいいのに」

 思ったままを言うと、ミランは少しばかり残念そうな顔をした。

「俺が一緒にいたいだけだが、迷惑か? ベルはもう眠いか?」
「別に眠くもないし、迷惑とも思わないけれど」

 当たり前のようにミランの隣に腰かけて、ベルティーナはほぅと一つ息をついた。

 テーブルの上には湯気の立つポットと二つのカップ。侍女たちが入浴中に用意してくれたのだろう。カップを二つ置いているという時点で、きっと今日もミランが来ることを察していたのか、妙に準備万端に思えてしまい、ベルティーナは吐息をこぼしつつ、二つのカップにお茶を注いだ。

「……それでさ。俺、寝る前に一つお前に頼みたいことがあって来たんだが」
「何よ、ちょっと畏まって。どんな頼みごとなの?」

 自分のカップにもお茶を淹れながら答えつつ、彼を一瞥したそのときだった。

「そろそろベルと寝たい」

 言われた言葉に、ベルティーナは目を(みは)って硬直した。

 瞬く間に「お茶が溢れるぞ……」なんて指摘され、ベルティーナは我に返り、顔を赤々と紅潮させた。

 寝たいと。つまり、一緒の床に……?
「いい匂い」だなんて言う相手だ。何をされるか分かったものじゃない。ベルティーナは真っ赤になって、ぱくぱくと唇を動かすと、彼は途端に噴き出すように笑い出した。

「……冗談だけど」

 きっぱりとミランが言って安堵するものだが、冗談だと分かるとふつふつと腹が立つもので、ベルティーナは冷めた目でミランを一瞥しつつ、お茶を並々と注いだカップを手渡した。

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