呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~

第25話 燦々の光に映る青白い鱗

 二人での外出から三日後──その日、ベルティーナは吹き荒ぶ風の音で目を覚ました。
 天蓋のベールを開き、柱時計で時刻を確認すると、昼の一時ごろを示している。
 ベッドから起き上がったベルティーナは窓辺に近づき、カーテンを開くと、空は抜けるような快晴だった。

 しかし、こうも風が強いことは珍しいように思う。
 ナハトベルグに来て、すでに二ヶ月が経過した。当然のように雨が降る日もあったが、ここはヴェルメブルグと気候はさほど変わらない。しかし、こんなに風が強く吹くことは今までに一度もなかっただろう。

 ベルティーナはカーテンを閉じて再びベッドに戻る。

 まだ起きるには早すぎるだろう。ベルティーナは瞼を伏せるが、こんなにも風がうるさいともう一度眠れる気がしない。早々に二度寝を諦めたベルティーナはもう一度起き上がり、いそいそとお仕着せに着替え始めた。

(随分と早いけれど、庭の様子でも見に行こうかしら)

 もう二ヶ月だ。植えたハーブ類はだいぶ育っている。それに、観賞用と植えた毒花も根づいていた。

(トリカブトにおいては、全草有毒。別に花が咲かなくても収穫したって大丈夫そうよね。たくさん植えつけたんですもの。何株か間引いたとしても大丈夫でしょう。そろそろ行動に移したとしても……)

 そう思うが、ベルティーナはすぐに眉根を寄せた。

 早く起きたからこそ、侍女たちに何をするのかなど聞かれず作業できる絶好の機会とは思う。だが、今さらのように、製油を抽出するために使うフラスコやランプなどの備品を一切持ってこなかったことを思い出したのだ。

 別に侍女たちの協力を仰げば、近しいものの調達くらいできるだろうとは思う。
 だが、それ以上に、どうにもそんな気にならなくなってきてしまったのだ。

 勿論、呪われた身となった恨みも十七年も爪弾きにされ、庭園に幽閉されていた恨みも忘れていない。しかし、女王が迎えに来たあの日に抱いた暗い思想には至らなくなってしまったのだ。

(どうしたものかしらね……私ってば)

 ベルティーナはこめかみを揉んで、思考を巡らせた。けれど、「保留にしよう」と早くも結論が出た。

 少しばかり浮かぬ面持ちのまま、ベルティーナは一人、部屋を出た。

 こちらの時間では現在は真夜中に当たる。今は使用人たちも皆眠っている時間だ。
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