呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 ミランが少しばかり意地悪く言うものだから、ベルティーナは思いっきり唇をへの字に曲げる。

「してないわよ!」

 ──馬鹿じゃないの!
 なんて、憎まれ口を付け添えて。ベルティーナは向かい風さえお構いなしに、ミランを追い越してスタスタと庭園に向かって歩み出した。

 そうして間もなく、庭園に着いたわけだが……風が強いからといって、普段と何ら変わりがなかった。

 しかし、いつも以上に緑が濃く見えるような気がする。
 何せ、いつも庭園に来る時刻と言えば、早くても黄昏時だ。こうも太陽が真上にあるときに来たこともないもので、昼の輝かしいほどの緑の景色に、ベルティーナは息を呑んだ。しかし、それは隣に立つミランも同様だった。

「すげえな……白昼に出歩いたことなんてほとんどないが、何もかも色が濃い」

 そう言って、彼は城の方に視線を向け、目を糸のように細めた。

 黒砂岩に紫水晶の結晶を混ぜて積み上げたかのようなナハトベルグ城──白昼の太陽の下、城は淡い紫の光を放ち、きらきらと輝いているようにも見える。それはあまりにも美しく、ベルティーナも同じように見とれてしまった。

「そうね。私も庭園に来るのは早くても黄昏時ばかりだから、同じことを思ったわ」

 そう言って、ベルティーナはミランを一瞥しようとしたが──その視線が反らせなくなった。

 光を受けた立派な巻き角や目元に散らされた鱗は、妖しい青白い光を反射していたのだ。
 初対面のときにも見た光景でもあるが……こうも煌々とした太陽光の下でまじまじとミランの姿を見たことも初めてだったからだろう。その光はとてつもなく妖しくも美しいもので、ベルティーナは息を呑み、食い入るように彼を見つめてしまった。

 しかし……。

「……そんなじっと見て、求愛か? ここ、外なんだがな。随分と大胆で……」

 なんて、ミランが意地悪く言うものだから、ベルティーナは慌てて目を反らした。

「違うわよ。こうも太陽光が燦々とした場所で貴方を見たのは初めてで……」

 ──角と鱗が宝石みたいで綺麗だと思って見とれた。と、素直な言葉を不機嫌そうに言えば、彼はくすくすと笑みをこぼした。

「そう。ありがとな」

 そう言った彼の横顔もあまりに綺麗なもので……。ベルティーナはまた見とれてしまいそうになるが、からかわれるのも癪に思い、すぐに顔を背けた。

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