呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 たかが湯浴みだけで人を使う贅沢な生活。それも常に甘ったるい香りにまみれて……。そんな風に思うと反吐が出る。ベルティーナは呆れつつ、アンダードレスに袖を通した。

 置き書き通りに使用人を呼べば、待機していた彼女たちはすぐに脱衣所に入ってきた。それから、あれよあれよという間にドレスを着せられ、髪を結われ、化粧を施される。

 鏡の中で見違えるほどに変わっていく自分の姿に心の中で驚くものの、ベルティーナの表情は一切崩れない。

「……と、とても美しく仕上がりました」

 ようやく終わって、おどおどとハンナが言うが、ベルティーナは何も答えなかった。

 そうして元の部屋へ戻るなり、男の使用人に待機を言い渡された。
 テーブルの上には、軽食のサンドイッチやクグロフ、レープクーヘンなどの上等な焼き菓子。それらが所狭しと並んでおり、使用人はグラスに葡萄ジュースを注ぐと、そっとベルティーナの前へ差し出した。

「しばしお寛ぎくださいませ。何か不足な点がございましたら、これでお呼びください」

 丁寧な所作でテーブルに置かれたベルを示し一礼すると、男の使用人は三人の女使用人たちを引き連れて部屋から退いた。

 それからの時間は、やっと一人きり……。
 ようやく気分が落ち着き、言われるがままベルティーナは寛いだ。

 時計の針を見れば、午後九時を回っていた。持ち出した本を読みながら焼き菓子をつまみ、ぼんやりと過ごしていれば、やがて時計は十時の鐘を打つ。

 その直後から次第に眠気が襲ってきた。ベルティーナは本を膝に置き、気づけばうとうとと眠りの世界に誘われていった。

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