呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~

第26話 鏡像の災いに揺れる

 そうして、ベルティーナは彼の袖を引っ張ったまま、高台にある東屋へ向かった。
 東屋には屋根がある。直射日光を防げるもので、少しはこれで視界もましになるだろうと思ったが……その憶測は正しかった。

「ああ、だいぶましだ。ベルの顔がよく見える。さっきのベル、目も口もなかったから……」

 普段通りの精悍な面持ちに戻った彼は、苦笑いを浮かべて言うものだから、ベルティーナは釣られて笑ってしまった。

「多分、貴方たちは人間とは目の作りがきっと違うのね。というか……目が眩むなら、最初から言ってちょうだい」

 ──本当にわざわざついてこなくても良かったのに。
 なんて呆れて言えば、彼はすぐに首を振った。

「いや、ベル一人を白昼に出すのはさすがにな……」
「白昼だからって、警備が厚い城に暴漢なんて来ないでしょうに。それに、貴方と同じで魔性の者たちは皆、昼の陽光には目が眩むのでしょう……」

 いくらなんでも過保護だろう。ベルティーナが呆れつつ言うと、ミランはベルティーナの頭をぽんぽんと撫でた。

「何で頭を撫でるのよ……」

 子どもじゃないのよ、と突っぱねるように言うが、彼は優しい笑みを浮かべて目を細めた。

「そんなの、可愛いからに決まってるだろ」

 そう言われて、ベルティーナはむっと目を細めた。

「可愛いっていうのは……イーリスやロートスみたいな小さな女の子を言うのよ? 私に可愛げなんてないわ」
「いいや、可愛いよ、ベルは。見た目は美人だけど、少し捻くれた性格がな。それでも清純だ。それら全部をひっくるめて堪らなく可愛い」

 ──まったく自覚ないだろうけど。
 なんて言い添えられたが、ベルティーナはお構いなしに庭園に視線を移したそのときだった。

 彼に突然肩を掴まれたのだ。驚いてミランの方を向くと、深い碧翠の瞳と視線がかちりと混ざり合い、ベルティーナは息を呑んだ。何せ、その表情があまりにも真摯だったのだから……。

「だからこそ心配なんだ。また悪い輩に連れ去られたりしないかって、本当に心配になる。それに、俺との婚姻がやっぱり嫌だって逃げるかもしれないって思うから……」

 普段は極めて平坦な彼にしては、珍しく自信なさそうな物言いだった。

 やはりあの件は彼の中に根深く残っていたのだろう。それに、まさか自分が逃げ出すことを恐れているなんて思いもしなかった。
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