呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 こんなに背が高い大人の男がそんなことを不安がるなんて思いもしなかった。だが、何だかそれがほんの少しだけ可愛らしく思えてしまい、ベルティーナはくすりと笑みをこぼす。

「馬鹿ね。そんな子どもみたいなことするわけないじゃない。貴方との結婚はとっくの昔に決まってるのよ? それに、ここまで来ておいて、それはありえないわ。いずれ私は魔に墜ちるものだし、帰る場所なんてもう他にはないことは、貴方だって知ってるわよね?」

 毅然として告げると、ミランは眉間を揉んだ。

「確かにそうかもしれないが……ベルは俺のこと愛してるだの好きだのそんな感情はないだろ?」

 真面目に()かれ、ベルティーナは口ごもった。

 ──決して嫌いではないだろう。むしろ彼に対して興味があるのだから、好きだとは思う。だが、自分はきっと彼以上の口下手だ。
 しかし、こうもいざぶっつけ本番で言われてしまうと、自分の本心を曝け出すのも恥ずかしいもので……。

「別に──」

 ──上手く言葉にできないけれど、嫌いではない。好きよ、とベルティーナが意を決して本心を曝け出そうとしたそのときだった。

 ミランはすんと鼻を鳴らし、遠くを睨むように見つめた。
 突然の変貌にベルティーナが驚嘆するのも束の間……彼は、ばつが悪そうに舌打ちをした。

「どうしたの、急に……」

 まるで獣のような瞳だった。それも見たことのないほどの険しい面持ちで……。

「風の強さに嫌な予感がしてたが……やっぱり俺、ベルについてきて正解だった」

 なぜ風が嫌な予感か、ついてきて正解とは……。
 ベルティーナは彼の意図を読み取ることができなかった。

「嫌な予感って……」

 復唱すれば、彼はベルティーナを一瞥する。その表情はどこか焦燥を感じる切羽詰まったものだった。

「確か、前に出かけたときに少しだけ話したよな? ナハトベルグ城周辺は割と穏やかだが、この世界は稀に災害に見舞われるって。それがこれ」
「……風が?」

 どういう事だ。訳が分からず首を傾けて()けば、彼は頷く。

「ベル、お前は急いで城に戻って使用人たちを叩き起こして欲しい。それで城門を開いておくように伝えてくれ」

 そう言われたものだが、依然として微塵も状況が飲み込めていないもので……。

「待って、どういうことなの……」

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