呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 彼の袖を掴んでベルティーナが()くと、ミランはこめかみを揉んだ。

「いずれは分かることかもしれないが、表の世界から来たベルにこれをはっきりと言うことは……」
生憎(あいにく)、愛国心なんて微塵もないわ。はっきり言ってちょうだい。貴方、急いでいるのでしょう?」

 きっぱりとベルティーナが言い放つと、ミランは切羽詰まった顔を背けた。

「……ナハトベルグは表のヴェルメブルグの複製にして鏡合わせ。鏡像(きょうぞう)世界だ。多分、戦争ではないだろうが……大規模な森林伐採だの丘陵を崩すだの開拓でもやってるんだろうな。あっちで必要以上に資源を奪えば、大地の生命力のバランスを崩して、こっちでは天災に変わり果てる。この強風はその現れの一つ」

 きっぱりと言ったミランの言葉に、ベルティーナは目を(みは)った。

 ……天災の話は以前の外出時に聞いたが、まさかそれが表の世界、ヴェルメブルグと繋がっていたとは。

 だが、その言葉を聞いて納得した。
『時折』『今はだいぶ減った』と……確か、そんな言葉を彼は言っていただろう。つまり、あちらの戦時はこの天災も日常的だったのだろうと。

「だがな、問題はそこじゃない。加えて自然発火で森林火災が発生したんだと思う。木が燃える焦げ臭い嫌な匂いが微かにするんだよ」

 彼は今一度、すんと鼻を鳴らした後に、ベルティーナの両肩を掴み、正面を向かせた。

「負傷者を見つけたらすぐに城に運びたい。だから早く戻って知らせて欲しいんだ!」

 ──お願いだ、と真っ正面から真摯に言われ、ベルティーナは有無を言わず急いで(きびす)を返して石の階段を駆け下りた。

 そうして、ベルティーナが庭園を出たそのときだった。

「ミラン! ベル様!」

 リーヌの自分たちを呼ぶ声が聞こえ、ベルティーナはリーヌの名を叫んだ。声のした方を向けば、糸のように目を細めてよろよろと歩むリーヌの姿があった。
 平衡感覚を失っているかのようだった。ベルティーナは慌てて彼の元に駆け寄り、肩を貸した。

「……ああ、すいません、ベル様」
「気にしないでちょうだい。貴方たちが陽光の下で目が眩むとは、先ほどミランに聞いたばかりだったの。ゆっくりでいいから城に戻りましょう」

 そう告げるなり、ベルティーナは顔をしかめた。

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