呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~

第27話 災いに響く癒しの手

 それからしばらく。城に戻ると、城内は騒然としていた。
 伝えるべきこともすでにリーヌに伝えてある。リーヌは城につくなり、目の調子が戻ったのか、ベルティーナに一礼すると、使用人たちや城の護衛たちに声をかけに行った。

 その最中だった。自分を呼ぶ声が聞こえ、ベルティーナが振り向くと、ハンナと双子の猫侍女たちの姿があった。

「あら……貴女たち、起きたのね」
「この大騒ぎで飛び起きました! それに、ベル様がお部屋にいらっしゃらなくて! リーヌ様に、ミラン様とご一緒に庭園に行ったと聞いたので良かったですが……」

 ──とっても心配した。と、耳を下げて双子に言われたものだから、ベルティーナは書き置きを残さなかったことを一言詫びた。

「それで……見るからに使用人総出って感じだけど」

 周囲を見渡してベルティーナが言うと、ハンナは肩を竦めた。

「強い陽光の真昼です。魔性の者たちは視覚を失うからので、負傷者がたくさん運ばれることが予測されるものらしく……それで私たち使用人が看護に回るそうで……。私が昇降機を動かします。ベルティーナ様はお部屋に戻ってお待ちいただけますか?」

 そう言われたものだが、以前ミランに処置を拒まれたときのことを思い出し、ベルティーナは不審そうに眉をひそめた。

「そう。でも一つだけ質問に答えて。負傷者が運ばれるというけど、薬に備蓄はあるの?」

 率直に()くと、双子の猫侍女たちはすぐに首を振るう。

「処置と言ってもガーゼと包帯くらいです。薬は命にかかるほどの重傷でなければ使いません。綺麗なお水で洗うくらいで……。そもそも私たちはとても身体の作りが強いですから、傷の治りが早いです。それでも傷口から壊死なんてした場合は、運が悪かったとしか……」

 そう言われてベルティーナは唇をへの字に引き攣らせた。

 ……この世界ではハーブはほとんど“良い香り”のお茶として飲まれているだけで、その効能さえ知られていない。それどころか、ただの観賞用か虫除けにしか使われていない。
 傷の処置に対しても、舐めておけば治る論が蔓延しているもので、医療の発展はあまりにも原初的すぎる。

 ベルティーナは目頭を押さえつつ、大きなため息を吐いた。

「あのね、〝壊死したら運が悪い〟なんて本当にどうかしてるわ。そもそも論で言うけれど、壊死なんてさせなきゃいいのよ」

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