呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
「やめてちょうだい。そんなこと……そんな風に、私はもう思っていない! もう何も言わないで!」

 ベルティーナは身を縮め、きつく瞼を閉ざした。その瞬間だった。
 また別の誰かが自分を呼んでいる声が聞こえてきたのだ。

「……ベル、…………ベルティーナ?」

 ──起きろ。
 と鮮明に聞こえた途端、視界はぱっと明るくなった。

 ベルティーナは何度も(まばた)きをして辺りを見渡した。
 そこは、紛れもなく自分の部屋。空は明るく、燦々とした夏の日差しが窓辺から射していた。

「……おい……大丈夫か?」

 聞き慣れた低く平らな声で言われ、妙な安堵を感じた途端、ベルティーナの瞳には分厚い水膜が張った。

 あれは、何だったのだろう。そうは思うが、あれこそが、自分の中に存在する汚い自分であり自己幻視(ドッペルゲンガー)……とすぐに理解した。

(あれを認めろと……? あれが私……?)

 放心したままのベルティーナが、心で呟いたそのときだった。感じたことのないほどの孤独感と焦燥感が込み上げ、ベルティーナは手で顔を覆って慟哭した。

「おい、しっかりしろ! ベル、ベル!」

 やんわりと腕を掴まれ、視界を覆っていた手がはがれる。涙で揺れた視界の先に映るのは……自分の婚約者ミランの顔だった。
 まるで幼子のように、彼に縋るようにベルティーナが彼を呼んだそのとき。温かな手が自分の手に絡んだ。

「怖い夢でも見たのか? ほら、目の前。いるよ、さっきから」

 ──気づけよ、なんて苦笑いをして、ベルティーナの頬に口づけを落とした。

 こんな所作をされるのはとてつもなく恥ずかしいはずだが、それでも嫌な気がしない。……ベルティーナは自然と彼の首の裏に手を回し、自分の胸に彼を抱き寄せた。

「私を独りにしないで……独りはもう、嫌よ」

 ──独りは寂しい、悲しい。
 真実の言葉は、十七年の孤独はすべて涙と共に流れ落ちていった。

 小賢しいほどに聡明であるように──そう言われていたものだが、本当はいつだってとてつもなく寂しかった。
 いない者とされたこと、自分の存在価値。結局何もかも見て見ぬふりで諦めて、取り繕って生きてきたのだ。それに改めて自分で気づいてしまったのだ。

「助けて……」

 震えた声でベルティーナが告げ、さらに強くミランの頭を抱きかかえた。
< 135 / 164 >

この作品をシェア

pagetop