呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 だが、胸元に顔を埋めているのがあまりに居心地が悪かったのだろう。彼は、自分を拘束する手をやんわりと解き、隣に腰掛けるとベルティーナを強く抱き寄せた。

「大丈夫だ。絶対にさせない。お前を離さないって決めているから。ごめんな、あれから忙しかったのと、ベルも忙しかっただろうから顔を出せなかったんだが……」
「ミラン、傍にいて。ずっと……もう独りは嫌……私は、ここにいたい」

 ──幸せになりたい。
 とベルティーナが素直な心を曝け出し、言葉にしたそのときだった。

 じんと胸の奥が焼けるように熱くなった。だが、その熱さはこれまでのものとは違う。まるで血が沸騰し煮えくり返るような熱さだった。

「──あ、ああ、あああ!」

 アイスブルーの瞳を大きく(みは)ったベルティーナは、自分の胸を押さえて暴れ藻掻いた。

「……ベル? おい!」

 異変を察したミランは、即座に手を緩め、ベルティーナの両肩を掴んだ。

「あ……ああ……熱い、熱い! ぁ、あああ! っ……痛い!」

 途端に感じたのは、背の肉が引き裂かれるような激しい痛みだった。それは気が狂ってしまいそうなほど……。熾烈な痛みにベルティーナは大粒の涙をこぼし、歯を食いしばった。

「嫌、だめ……認めない。私は、認めない! 嫌、認めたくない……! そんなの……!」

 半狂乱になったベルティーナは泣き叫び、彼の手を振り切って立ち上がった。

 だが、当然のように立っていられるはずもない。
 ベルティーナは床の上で のたうち回るように藻掻き、胸を強く押さえた。

 自分の名を叫ぶミランの声だけは聞こえていた。しかし、段々とそれを掻き消す声が聞こえてくる。

 ──孤独だ。愛されない。認めろと。その言葉は呪いのように。

「いやぁあああああ!」

 熱さと痛み、呪うような言葉に悶えたベルティーナが金切り声を上げたそのときだった。
 ぐしゃりと生々しい音が響いた。その瞬間、ベルティーナのアイスブルーの瞳は一瞬にして毒々しい紫色に色づいた。

 陽光に照らされ、床に映し出されたベルティーナの影──その背には夥しい茨が躍っていた。そうして間もなく、彼女はとうとう異形に変わり果てた。

「あ……ああ! あああ! ミラン、ミラン……!」

 ──助けて。
 そう、叫んだと同時、ベルティーナの意識は途絶えた。

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