呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
第30話 茨の心に翼に宿る毒の覚醒
※※※
今、何が起きているかミランは当然のように理解できていた。しかし、ここまで苦しむ様子にはやはり冷静ではいられなかった。
以前より随分と感情が豊かになったとはいえ、さして表情が変わらない彼女が苦しそうに顔をしかめ、藻掻く様子には焦燥ばかりが募る。
魔に墜ちる呪いとは、心が満たされたときに発動するものとは聞いていた。
だが、彼女が何を満たしたのかも分からない。ただ、自分が夢に魘される彼女を起こしたとき、まるで人が変わってしまったかのように弱々しく孤独を語ったくらいで……。
──まさか。
ミランの中で一つの憶測が過った。
満たす。安直に幸福を覚えるのではなく、心に秘めた本心を初めて言葉に出したことによって彼女は満たされたのだろうと。確かに条件はそれぞれ違うとは言うが……それしか考えられなかった。
「──しっかりしろ! ベル! ベル!」
ミランは床に崩れて狂ったように藻掻く彼女を抱き寄せようとしたそのとき──彼女はとうとう魔に墜ちた。
こればかりはどうすることもできない。ミランはベルティーナを傍観する他なかった。それでも、彼女の名を幾度も叫ぶが、完全なる異形になり果てたときにはもう、その声は届かなかった。
そこに佇む彼女だったもの……。
それは、恐ろしくも美しい怪物だった。
──花弁によく似た薄紫の鱗に覆われた皮膚に、蝶の翅に似た鮮やかな翼膜。
腕から突き出た三本の翼角はまるで大きな花弁を寄せ集めたかのような鱗に覆われており、背中を突き破って無数の茨の蔦が躍るように萌えていた。
さらに際立つのは、胸元や脚に巨大な花が咲き誇っていたことだろう。
爬虫類に哺乳類……と、いくらか動物と植物を掛け合わせた姿ではあるが、特徴からして自分と同種──竜と思しい。
その体躯は本来の自分の姿よりも幾分か小柄ではあるが……それでも半人の姿で見れば、巨大に違いない。
「ベル……しっかりしろ、おい!」
彼女の名を叫ぶが、ベルティーナだったものは狂ったように甲高い咆哮を上げるばかりだった。
「──ミラン!」
騒動をすぐに察したのだろう。寝間着姿のリーヌや彼女の侍女たちが慌てて部屋に入るものだが、誰もがその姿を見た途端に言葉を失い、唖然と立ち尽くした。
今、何が起きているかミランは当然のように理解できていた。しかし、ここまで苦しむ様子にはやはり冷静ではいられなかった。
以前より随分と感情が豊かになったとはいえ、さして表情が変わらない彼女が苦しそうに顔をしかめ、藻掻く様子には焦燥ばかりが募る。
魔に墜ちる呪いとは、心が満たされたときに発動するものとは聞いていた。
だが、彼女が何を満たしたのかも分からない。ただ、自分が夢に魘される彼女を起こしたとき、まるで人が変わってしまったかのように弱々しく孤独を語ったくらいで……。
──まさか。
ミランの中で一つの憶測が過った。
満たす。安直に幸福を覚えるのではなく、心に秘めた本心を初めて言葉に出したことによって彼女は満たされたのだろうと。確かに条件はそれぞれ違うとは言うが……それしか考えられなかった。
「──しっかりしろ! ベル! ベル!」
ミランは床に崩れて狂ったように藻掻く彼女を抱き寄せようとしたそのとき──彼女はとうとう魔に墜ちた。
こればかりはどうすることもできない。ミランはベルティーナを傍観する他なかった。それでも、彼女の名を幾度も叫ぶが、完全なる異形になり果てたときにはもう、その声は届かなかった。
そこに佇む彼女だったもの……。
それは、恐ろしくも美しい怪物だった。
──花弁によく似た薄紫の鱗に覆われた皮膚に、蝶の翅に似た鮮やかな翼膜。
腕から突き出た三本の翼角はまるで大きな花弁を寄せ集めたかのような鱗に覆われており、背中を突き破って無数の茨の蔦が躍るように萌えていた。
さらに際立つのは、胸元や脚に巨大な花が咲き誇っていたことだろう。
爬虫類に哺乳類……と、いくらか動物と植物を掛け合わせた姿ではあるが、特徴からして自分と同種──竜と思しい。
その体躯は本来の自分の姿よりも幾分か小柄ではあるが……それでも半人の姿で見れば、巨大に違いない。
「ベル……しっかりしろ、おい!」
彼女の名を叫ぶが、ベルティーナだったものは狂ったように甲高い咆哮を上げるばかりだった。
「──ミラン!」
騒動をすぐに察したのだろう。寝間着姿のリーヌや彼女の侍女たちが慌てて部屋に入るものだが、誰もがその姿を見た途端に言葉を失い、唖然と立ち尽くした。