呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 だが、一拍も経たぬうち──狂乱状態の彼女は尾で窓ガラスと壁を壊すなり、空へと飛び立っていった。

 ※※※

 ……どうして、どうして認めてくれないの? どうして私を独りにするの? 私は要らない存在なの?
 憎い、憎いわ。そう、すべてを無に返してしまえばいいのよ。

 自分が言っているわけではない、悲嘆めいた己の声に促され、ベルティーナは穏やかに瞼を持ち上げた。

 そこはやはり、真っ暗な闇に閉ざされていた。目を開けたはずなのに、やはり目を開けているのだか閉じているのだか分からない。しかし、先ほどのような鮮烈な痛みはすでに無く、身体が幾分か軽かった。

 だが、不安は消えたわけではない。ベルティーナは眉を下げて辺りを見渡すと、間もなく、何かがこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。

 間違いなく自己幻視(ドッペルゲンガー)だ。
 しかし、先ほど聞いた足音とは違い、今度はカツカツとしたヒールの音だった。やがて、淡いラベンダー色の光を宿してひらひらと舞う無数の蝶が見えてくる。それは鱗粉を散らして飛び、真っ暗な闇を仄かに照らした。

「……おかえり、ベルティーナ。私を認めてくれる気になったようね? 少しだけ時間与えて、私が正しいって思い知ったのかしら?」

 高慢に言って、姿を現した者──それは、紛れもない自分自身だった。

 ナイトドレスを纏う自分に対して、彼女は少しばかり破廉恥に思えるあのバッスルドレスを纏っており、髪を編み込み、化粧もしっかりと施していた。

 しかし、亜麻色の髪の毛先が仄かに薄紫に色づいている。
 瞳の色も自分の持つはずのアイスブルーの色素とは違い、ラベンダーに色づいている他、耳の形も少しばかり尖っていた。
 それ以外にも、腰のあたりから無数の茨の蔦が萌えており、それが踊るようにくねくねと蠢いているもので……。

 これが、魔に墜ちた自分の姿だと、何となくでベルティーナは理解した。

「私を返してちょうだい……」

 震えた声でベルティーナが告げるなり、彼女は顎をそびやかして鼻でせせら笑う。

「寝てもいないのに何を寝言みたいなこと言ってるのかしら? 貴女は私、私は貴女よ?」

 ──馬鹿言わないでちょうだい、と冷たくあしらって、自己幻視(ドッペルゲンガー)はベルティーナを射すように睨み据えた。
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