呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
その視線に臆したベルティーナは二歩三歩と後ずさった。
「それで? あんたはこの国に来て、人の温かさを知り、婚約者のミランと仲睦まじくなって……随分と変わったけれど。それで望むのは、幸せに暮らす未来がお望みで?」
「……それの何が悪いのかしら。考えは変わるものよ。確かに、私は貴女の言う憎しみも孤独も忘れてはいない。だけど」
「だけど?」
高慢に言葉を反復されて、ベルティーナは口ごもった。
「愚かね。所詮、皆が自分を手放さないとでも思ってるでしょうね? 自分が必要とされている存在とでも思っているのかしら」
──たいそうなご身分で。なんて呆れた調子で言われるが、まさに自分の心に抱く不安そのもので、ベルティーナは俯いた。
「だけど、所詮は口約束よ。そんなもの信じられるのかしら? また貴女が孤独になる未来だってありえなくもないでしょうに」
──たとえば、ミランが決闘で負けたとき。王座に着けず、貴女が要らぬ者となる可能性もありうるわ? それに何より、貴女がこんなに醜い復讐心を持った悍ましい化け物だと分かったときね。
そう、続けざまに付け足すと、彼女は高らかに笑う。
まさに的確すぎた。だからこそ、言われたことに反論の余地なんてなかった。
黙ってしまうと、彼女は対面して座り、真っ正面からベルティーナを睨み据えた。
「だからこそ私を認めなさい? 貴女が希望なんて持ったところで無駄よ」
「そんなこと……私は、私は……」
ベルティーナは言葉を探った。だが、それ以上は出てこないもので、彼女はまたも口を噤んだ。すると、自己幻視はニヤリと妖しく笑って、ベルティーナの頬を優しく撫でる。
「いいこと? 私を受け入れれば、貴女にとって最高の復讐を叶えてあげるわ?」
鋭い牙が覗くほどに彼女が口角を釣り上げて言ったそのときだった。
微かではあるが、どこからかミランの声が響いたのだ。
ベルティーナがはっと目を見開くと、脳裏にその光景が浮かび上がった。
そこは数週間前に訪れた場所──人間の世界と冥界へ続くと言われる門のある海だった。
風もなく、凪いだ水面はまるで鏡のようだった。遠浅の海なのだろう。駆ける自分の身体はまったく海水に浸かっていなかった。
しかし、自分は果たしてどこに向かっているのか……。
「それで? あんたはこの国に来て、人の温かさを知り、婚約者のミランと仲睦まじくなって……随分と変わったけれど。それで望むのは、幸せに暮らす未来がお望みで?」
「……それの何が悪いのかしら。考えは変わるものよ。確かに、私は貴女の言う憎しみも孤独も忘れてはいない。だけど」
「だけど?」
高慢に言葉を反復されて、ベルティーナは口ごもった。
「愚かね。所詮、皆が自分を手放さないとでも思ってるでしょうね? 自分が必要とされている存在とでも思っているのかしら」
──たいそうなご身分で。なんて呆れた調子で言われるが、まさに自分の心に抱く不安そのもので、ベルティーナは俯いた。
「だけど、所詮は口約束よ。そんなもの信じられるのかしら? また貴女が孤独になる未来だってありえなくもないでしょうに」
──たとえば、ミランが決闘で負けたとき。王座に着けず、貴女が要らぬ者となる可能性もありうるわ? それに何より、貴女がこんなに醜い復讐心を持った悍ましい化け物だと分かったときね。
そう、続けざまに付け足すと、彼女は高らかに笑う。
まさに的確すぎた。だからこそ、言われたことに反論の余地なんてなかった。
黙ってしまうと、彼女は対面して座り、真っ正面からベルティーナを睨み据えた。
「だからこそ私を認めなさい? 貴女が希望なんて持ったところで無駄よ」
「そんなこと……私は、私は……」
ベルティーナは言葉を探った。だが、それ以上は出てこないもので、彼女はまたも口を噤んだ。すると、自己幻視はニヤリと妖しく笑って、ベルティーナの頬を優しく撫でる。
「いいこと? 私を受け入れれば、貴女にとって最高の復讐を叶えてあげるわ?」
鋭い牙が覗くほどに彼女が口角を釣り上げて言ったそのときだった。
微かではあるが、どこからかミランの声が響いたのだ。
ベルティーナがはっと目を見開くと、脳裏にその光景が浮かび上がった。
そこは数週間前に訪れた場所──人間の世界と冥界へ続くと言われる門のある海だった。
風もなく、凪いだ水面はまるで鏡のようだった。遠浅の海なのだろう。駆ける自分の身体はまったく海水に浸かっていなかった。
しかし、自分は果たしてどこに向かっているのか……。