呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~

第31話 遠浅の海に煌めく愛と赦し

「でしょうね」と返せるのは、自分だからこそできる答えである。

 そう。所詮、彼女は自分自身に変わりないのだ。
 つまりは……彼女だって、ミランに惹かれている。それに、自分となれば、姿形が少しばかり違うにしても、恐れる必要はないことをベルティーナはすぐに思い出した。

(そうよ。私の最大の敵は自分。捻くれた考え方で自分の孤独を閉じ込め続けて歪んでしまった自分。それに勝るものは、自分しかいない)

 ベルティーナは鼻でせせら笑い、顎を聳やかすと、自己幻視(ドッペルゲンガー)を睨み据えた。

「何よ、その顔は」

 自己幻視(ドッペルゲンガー)はすぐに唇をへの字に曲げる。
 だが、その反応だって自分らしいものだと思った。そう、高慢で小賢しく捻くれた、ただの自分だと。

「貴女は私よね? 彼、過去に私に会っているらしいけれど、私は何も覚えてないのよ。気になるわ。思い出したいのよ?」

 その他にも気になることはたくさんある。彼との他愛のない会話は幾らか重ねてきたものだが、知ったことはまだ数少ない。
 好きな食べ物に好きな色。好きな花に好きな季節……と、どうでもいいことだって知りたいことは様々ある。

 そんな興味は彼に対してだけではない。まるで生贄のように自分とこの世界にやってきたハンナに対してもそれは聞きたい。
 それから可愛い双子の侍女、イーリスとロートスも。それに、彼の近侍(きんじ)であって大親友のリーヌにだって聞いてみたい。

 そんな素直な思いを口に出せば、自己幻視(ドッペルゲンガー)は呆れた顔で鼻を鳴らした。

「そんなのどうだっていいじゃない……あんたの本望は」

 ──〝復讐〟と彼女が言い切る前に、ベルティーナはふんと鼻を鳴らした。

「馬鹿ね? そもそも貴女は私でしょう?」

 ベルティーナがあっさりと言えば、自己幻視(ドッペルゲンガー)は顔をしかめた。

「ねぇ。私は、底なしの孤独感(わたし)を認めて受け入れるわ。嫌われるか嫌われないか? そもそも、そんなの本人に聞いてみなきゃ分からないでしょう。自分で勝手に判断するのもおかしいと思わなくて? 認めるけれど、勘違いしないでちょうだい。復讐はもう要らない。別の手段がきっとある」

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