呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
ベルティーナは、ふと視線を下げた。すると、そこには、小さな黒い何かが水面の上に浮かんでいた。その周辺には赤黒い血液らしきものが滲んでおり、潮の匂いに混じって鉄臭い匂いが漂っていた。
クラクラキラキラと動く水面の上、やっと焦点が定まり、その正体を悟ったと同時に、ベルティーナは悲鳴にも似た甲高い咆哮を上げた。
……明らかな既視感。それは、血濡れた一羽のカラスだった。
(嫌ぁ……嫌、嘘、嘘!)
ベルティーナが半狂乱になって叫んだそのときだった。
ぱちりと何かが弾けたような感覚を覚えた瞬間、ベルティーナの姿は人に近い姿に変わった。定まらない焦点の視界で、ベルティーナは必死になって水面に浮かぶカラスを掬い上げ、胸の中に抱き寄せた。
ここにいるのは自分とミランだけ。間違いなく自我を失った自分が彼を傷つけたのだと考えずとも理解できた。
「ミラン、ミランでしょう。ねえ……!」
ベルティーナは胸に抱き寄せたカラスに必死になって語りかけた。だが、反応は皆無だった。
まだはっきりとこれまでの感謝も、自分の抱く好意も、果てしなく寂しがり屋で醜い自分のことだって伝えていないというのに。恩を仇で返すようなことをしてしまったのだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい……私」
半狂乱になったベルティーナは大粒の涙をこぼし、彼へ謝罪の言葉を繰り返した。その最中だった。カラスは緩やかに瞼を持ち上げたその瞬間──黒い闇に包まれた。
そして、それが晴れると、自分の腕の中にはミランの姿があった。
「……おいおい、勝手に殺すな。死んでない。生きてる」
痛てて……なんて、彼は腹を押さえて目を細めながら言うが、ベルティーナは安堵した途端にさらに泣きじゃくった。
「体力削られすぎて魔力が尽きると……こう、姿を保てなくなるもんでな……」
ばつが悪そうに言いつつ、ミランはベルティーナの腕をやんわりと外した。そうして今度は彼がベルティーナを胸に抱き寄せ、梳くように髪を優しく撫で始めた。
「ごめんなさい……」
「謝るな。自分の好きな雌だ。なるべく傷つけたくないから、攻撃なんてしなかっただけ。気が済むまで殴らせて、お前の正気が戻るのを待ってただけだ」
──だから、俺が怪我してるのは、俺の責任、なんて彼は笑い混じりに言った。
クラクラキラキラと動く水面の上、やっと焦点が定まり、その正体を悟ったと同時に、ベルティーナは悲鳴にも似た甲高い咆哮を上げた。
……明らかな既視感。それは、血濡れた一羽のカラスだった。
(嫌ぁ……嫌、嘘、嘘!)
ベルティーナが半狂乱になって叫んだそのときだった。
ぱちりと何かが弾けたような感覚を覚えた瞬間、ベルティーナの姿は人に近い姿に変わった。定まらない焦点の視界で、ベルティーナは必死になって水面に浮かぶカラスを掬い上げ、胸の中に抱き寄せた。
ここにいるのは自分とミランだけ。間違いなく自我を失った自分が彼を傷つけたのだと考えずとも理解できた。
「ミラン、ミランでしょう。ねえ……!」
ベルティーナは胸に抱き寄せたカラスに必死になって語りかけた。だが、反応は皆無だった。
まだはっきりとこれまでの感謝も、自分の抱く好意も、果てしなく寂しがり屋で醜い自分のことだって伝えていないというのに。恩を仇で返すようなことをしてしまったのだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい……私」
半狂乱になったベルティーナは大粒の涙をこぼし、彼へ謝罪の言葉を繰り返した。その最中だった。カラスは緩やかに瞼を持ち上げたその瞬間──黒い闇に包まれた。
そして、それが晴れると、自分の腕の中にはミランの姿があった。
「……おいおい、勝手に殺すな。死んでない。生きてる」
痛てて……なんて、彼は腹を押さえて目を細めながら言うが、ベルティーナは安堵した途端にさらに泣きじゃくった。
「体力削られすぎて魔力が尽きると……こう、姿を保てなくなるもんでな……」
ばつが悪そうに言いつつ、ミランはベルティーナの腕をやんわりと外した。そうして今度は彼がベルティーナを胸に抱き寄せ、梳くように髪を優しく撫で始めた。
「ごめんなさい……」
「謝るな。自分の好きな雌だ。なるべく傷つけたくないから、攻撃なんてしなかっただけ。気が済むまで殴らせて、お前の正気が戻るのを待ってただけだ」
──だから、俺が怪我してるのは、俺の責任、なんて彼は笑い混じりに言った。