呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 ベルティーナは唇を噛みしめた。こんな自分のためにそんなことをしなくたっていいだろうに。
 噛みつこうが殴ろうが良かったはずだ。極限まで体力が削られるとは、即ち命の危機もあっただろうに。ベルティーナはすぐに首を振った。

「ごめんなさい……ミラン。私ね、ヴェルメブルグに復讐しようとずっと考えていた。憎くて堪らなかった。果てには、自分をこんな目に遭わせたこの国だって滅ぼしたいくらいに思った。私は孤独を誤魔化してきたせいで、酷く醜い心を持っているの。そんな私なんか……」

 ベルティーナがすべてを告げきる前だった。ふと、彼の顔が近づいた。と、焦点も定まらない視界の中で悟った瞬間──温かくも柔らかな感触が唇に触れ、ベルティーナは目を(みは)る。

 ──口づけされている。しっとりとした甘く柔らかな感触にそれを悟り、ベルティーナは慌てて彼の肩を押し返した。

「待って……! 何で!」

 ベルティーナは甲高く叫んで訴えたが、ミランはすぐに首を振るう。

「お前の背景を知れば、そう思って当然だって思う。でもな。その孤独を幸せに塗りつぶしていくのが俺の役目なんだ。五年も昔、感情を殺した独りぼっちの人間の女の子に出会ったときから俺はそう決めた」

 ──その子は、本当は心優しい女の子だ。傷ついた者のために献身的になり知恵を絞る。それに、人を助けるために自分の身を張ろうとする心の強さがある。少しばかり言葉に棘があるときもあるが、そんなのご愛敬だ。

 そう、付け添えて、ミランはやんわりと笑んだ。

 やはりそうだった。あのカラスこそがミランだったのだ。
 会ったことがある。その言葉の謎が解けたわけだが、少しばかり不審に思うことがあった。

「だけどミラン。貴方……どうしてヴェルメブルグ城の庭園に倒れてたの」

 ぽつりとベルティーナが()くと、彼は途端に、ばつが悪そうな顔をした。

「その……自分の婚約者を自分の目で見てみたくてな。さすがに半人や本来の姿じゃあっちには行けないから、魔力を最大まで削ってカラスに化けてたわけだが、街についたら旨そうな匂いするもんで裏路地で食い物屋のゴミを漁ってたら野犬に襲われてな……」

 後半につれて、彼の声は段々と小さくなっていった。

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