呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~

第32話 見張り塔に隠された秘密の部屋

 王城まで続く坂道で、ベルティーナは城の甚大な損傷を理解した。
 白昼の陽光の下では焦点も合わず、遠目ではまず分かりもしなかったが、自分に与えられた部屋が剥き出しになっていることから、その鮮烈な壊れ方がよく分かった。

 帰路の最中、ミランから城の損傷のことは聞いていたものだが……まさか、ここまでとは誰が思うものか。
 ベルティーナは目を細めてため息をついた。

「まず……ヴァネッサ女王に詫びなくちゃとは思うけれど……」

 ──果たして、この惨状をどう謝ったらいいのかも分からない。
 困窮して、ベルティーナがため息をつくと、ミランはやれやれと首を振った。

「……まあ、俺がどうにかする。そもそも魔に墜ちることに関しては、完全に予測不能だしな」
「確かにそうだけど……私がしたことで……」

 当然のように責任は感じてしまうものだった。きっと修復にも莫大な資金が必要になるに違いない。ベルティーナが眉を寄せて言うと、彼は「くく」と喉を鳴らし、笑みをこぼした。

「確かに、この有様だ。すげえ怒られやするだろうが……」

 笑いながら城を見上げてミランは口走った。しかし、彼は唐突に何かを思い立ったようで、すぐにベルティーナに視線をやった。

「そういえば、ベル。どんな罰でも受けるとか言ったよな……?」
「ええ、その言葉に二言はないけれど」

 ベルティーナが毅然として返すと、彼は何か思い立ったようで、ニヤリとどこか狡猾に笑む。
 その態度だけで何かを企んでいることは容易に理解できた。しかし、いったい何を企んでいるのか……。
 ベルティーナは怪訝に眉を寄せるが、彼は「おいで」と言うなり、ベルティーナの腕を掴んで足早に歩み始めた。

 そうして連れて行かれた先は城ではなく、自分が管理する庭園だった。
 緩い階段を上って東屋を横切り、やがてその奥に佇む見張り塔(ベルグフリート)へと辿り着く。

 確かここは物置だと聞いている。中なんて見たこともないが、確か……現在城の中で使われてもいない調度品がいくらかあるとだけ、ハンナから聞いただろう。

「ここに何の用が……」

 ベルティーナは顔をしかめてミランに言うと、彼は上衣の胸ポケットから鍵を取り出し、開錠した。

 まさか、この塔の鍵をミランが保有していたことにも驚いてしまうものだが、いったいどうして……。
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