呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 ミランと共に過ごす昼間を数えるだけでもう五度目ほどだろうか。ベルティーナは、ミランが朝食にと置いていったサンドイッチを口いっぱいに頬張りながら、ぼんやりと目を細めて塔の中を眺めていた。

 ……罰なのだから、仕方ないと思うが、如何せん暇だった。

 しかしながら、本当に不健全な生活だと思う。
 勿論、幸せだとは思うが……そろそろ許して欲しい頃合いだとベルティーナは思っていた。

 たとえこっぴどく怒られたとしても、城を壊したことを女王に詫びるべきだろうとは思う。それに、森林火災の負傷者たちの様子だって見に行きたいと思う。ハンナや双子の猫侍女たちに随分と会っていない気さえして、少しばかり寂しいとベルティーナは思った。だが、同じくらい気がかりに思えたことは庭園だ。

 ハンナや双子の猫侍女たちが仕事の合間を縫って様子を見に来てくれているだろうとは思うが、それでも自分の目で見ていないのだから不安しかなかった。

 しかし、よく考えれば……今自分がいるこの塔は庭園の高台に佇んでいるのだ。だが、外から施錠されているせいで自ら出ることは叶わない。

 どうにか出ることができないものか。ベルティーナは顎に手を当てて思考を巡らせていたさなか──塔の扉から叩扉(こうひ)が響いたのだ。

「ベルティーナ様! ベルティーナ様!」

 外から聞こえた声は間違いなくハンナのものだ。ベルティーナは慌ててサンドイッチを飲み込み、扉に歩み寄った。
 そうして施錠音がしてから間もなく扉が開き、案の定そこにいたのはハンナだった。しかし意外なことに、その隣にリーヌの姿もある。

「……久しぶりね? ハンナ。それとリーヌ」

 魔性に墜ちてから会うのは初めてだろう。
 ハンナは驚いた表情のまま、ベルティーナの方をじっと見つめていた。

 しかし、彼女の黄金(きん)の瞳にたちまち水膜が張り始めたことに、ベルティーナはぎょっとした。
 なぜに泣くのかと思えてしまうもので……。

「え、どうしたのよ……そんな、まるで本当に生きてた! みたいな顔で」

 まさにそんな風に見えてしまったのだ。
 そっけなく言うが、途端に強い力でハンナに抱き寄せられ、ベルティーナは目を丸くして泣きじゃくる彼女の背を撫でた。

「ちょっと、何を泣いてるのよ、ハンナ……」
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