呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~

第35話 嘘の代償に咲く愛の真実

 ……つまり、自分はミランに完全に騙されたのだ。

 そう思うと、恥ずかしさの中にも苛立ちが芽生えるもので、ベルティーナはたちまち唇をへの字に引き攣らせた。

「それで……今日が即位の儀で決闘の日? ミランはどこにいるのかしら? リーヌ、私をミランのところまで連れていきなさい。決闘の勝敗なんてどうでもいいわ。それが終わったら一発でいいから、あの人をひっぱたきたいわ」

 そう言ってベルティーナはリーヌを一瞥した。
 すると彼は「どうぞどうぞ」と軽い調子で言い、ベルティーナに(かしず)く。

 ミランは割と口数が少なくぶっきらぼうだ。それでも心根が優しいもので、強い信念を持つ。しかし、決定的な悪い部分はその不器用さが災いし、大事なことを言わず誤解を生むことだろうとベルティーナは思う。

 ハンナとリーヌに連れ出されたベルティーナは、不機嫌そのものの表情を浮かべて王城内へ入っていった。

 さすがにナイトドレスのままで厳粛な決闘の場に赴くのはいかがなものかとは自分でも思った。だからこそ、一度王城の自室へと戻ったのだ。

 大破した壁はそのままだった。それでも雨風を防げるようにと麻布が貼り付けてあり、外が見えないようになっていた。さらに幸いに思えたことは、部屋の中の被害はほとんどなく、目立った傷は特にない。

「さて、ベルティーナ様。ドレスはどうしますか?」

 そう()かれて、ベルティーナはすぐに破廉恥に思えるあの紫色の変形バッスルドレスを指さした。

「なるべく動きやすいやつよ。一発……いいえ、二発。できれば蹴りまでお見舞いしたいくらいだわ」

 ──だから早く着せてちょうだいと促せば、ハンナは衣紋掛けからドレスを外して着付けを手伝った。

 軽く髪も編み込み、簡単に化粧も済ませ、完全に用意も整うと、ベルティーナはそそくさと部屋を出た。すると、そこにはもうリーヌが待機しており、優雅な所作でベルティーナに(かしず)き手を取った。

「さあ、ベル様、参りましょう」
「ええ、頼んだわ」

 その手を握り返し、ベルティーナが連れてこられた場所は、閑散と開けた城のバルコニーだった。

 そこでリーヌは目を伏せた。するとたちまち黒い闇に覆われた彼は、赤い竜の姿に変貌した。それに倣い、ベルティーナも瞼を伏せた。
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