呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 冷たく付け加え、ベルティーナが立ち上がったと同時だった。ハンナはベルティーナの手首を掴み、首を横に振るう。

 まるで生贄のように道連れにされる。助け船を求めて真実を告げたのではないか。ベルティーナは煙たげにハンナを睨み据えた。

「……どの道」

 消え入りそうな声でハンナが言う。そのか弱い声色に、ベルティーナの苛立ちが燻ったのはすぐだった。

「何よ。はっきりなさい! そもそも貴女ね、モジモジ話して、よく聞き取れないし何ひとつ伝わらないのよ!」

 尤もなことをぴしゃりと言えば、ハンナは涙を拭って立ち上がり、真っ直ぐにベルティーナを射貫く。
 真っ正面に立つと、やはり彼女は背が高いと思った。ベルティーナは顎をそびやかして下から彼女を力強く睨み付ける。

「早く言いなさい。貴女本当イライラするわね」

 舌打ちを入れ、冷ややかに言った途端だった。ハンナは震えた唇をゆっくり開く。

「……どの道、もう私には故郷がありません。家族もいません。十七年も昔、ベルティーナ様が呪われた理由となったあの戦で全てを失いました。労働力になるだろうと戦争孤児として拾われ、この城で育ち、使用人として仕事を得て暮らしていました。もう帰る場所がないのです。だから……これから命をかけて貴女にお仕えいたしますので……」

 ──どうか……どうかよろしくお願いいたします。
 彼女が告げた言葉は、表情の割にハキハキとしたものだった。

 そうして、ハンナはベルティーナに向かって勢いよく一礼する。

 故郷がない。帰る場所がない。戦争孤児……。
 その言葉に、ベルティーナの脳裏には自然と自分を育てた賢女の顔が浮かんだ。
 歳は違えど、まるで同じ境遇だろう。つまりは彼女も、この国の犠牲者の一人に違わない。
 
 そして、今語った彼女の言葉から、ベルティーナはことの裏側を薄々悟った。

 ……この国は敗戦国の領地を奪うだけでは足りず、人権さえ奪っているらしい。
 戦争孤児を育て、仕事を与えたまではいいだろう。
 だが、結局は使い捨て。翳りの国に道連れにするなんて人柱と変わらない。きっと、他の女使用人たちも同じような境遇だろうと推測は容易かった。

 そんな苦しみや恐怖の裏側で、王族たちは贅を尽くしてのうのうと生きているのだ。

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