呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
「はぁ、なんだい。その間抜け面は」

 嗄れた声で言って姿を現したのは、五年も昔に亡くなったはずの賢女だった。

 ……久しぶりの再会なのに、酷い言いようである。
 ベルティーナはすぐに唇をへの字に曲げて鼻を鳴らしたが、それが面白かったのか、賢女はくくと喉を鳴らして笑った。

「久しぶりね。で、何よ、おばあさま。貴女、とっくの昔に亡くなったんじゃなくて?」

 毅然としてベルティーナが言い返せば、賢女は頷き、ベルティーナの間近まで歩み寄る。

「そうさ。死んでるさ。だけどね、あんたに最後にちゃんと伝えなきゃいけないことがあってな」

 そう言って、賢女は手を伸ばし、ベルティーナの頬を優しく撫でた。

「……ベルティーナ。私はあんたを娘のように、孫のように心から愛してたよ。当然のように情だってあった。だがね、言葉にすることはできなかった。何もできなかったことが何よりも心苦しかった。仕方なかったとはいえ、あんたには悲しい思いや、寂しい思いをたんとさせたね」

 静かに告げられた言葉に、ベルティーナのラベンダー色の瞳に分厚い水膜が張る。

「今さら何よ……そんなこと言われたって」

 どう反応したらいいかも分からない。どんな顔をしたらいいかも分からない。それなのに、心の奥が焼けるように熱くなり、視界が霞み、たちまち自分の眦から熱い滴が流れ落ちることだけを感じた。

「私は、あんたをずっと見守っていたよ。恨むのも仕方ないとは思うが、もう二度と馬鹿な恨み辛みなんて抱くんじゃないよ? だけど一つ最後に教えないとね……小賢しいほどに聡く賢いあんたなら覚えられるはずさ」

 そう言って、賢女は皺だらけの口元を緩やかに動かした。
 ──恨もうが果たそうが何も変わらない。恨めしいことへの最高の復讐は〝幸福〟以上のものはないと。

 それを言うと、賢女はにこりと笑んで、満足そうに頷く。

 ……確かにそうだ。それ以上の最高の復讐なんてないだろう。
 納得して頷くと、賢女は優しく微笑み、ベルティーナの背を優しく撫でた。

「可愛い可愛い私の花。翳りに咲き、その地で幸せにおなり。いいかい? この先も小賢しいほどに聡くあるように」

 心底愛おしげな声で賢女が告げたそのときだった。
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