呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
第4話 青の蝶舞う真夜中の来訪者
時計の針が午後十一時四十五分を指したと同時、叩扉が響き、控えていた使用人たちがどっと部屋に入ってきた。
「ベルティーナ様、サロンへお移りください。間もなく到着するかと思います」
男の使用人が傅くように言うが、ベルティーナは頷きもせず立ち上がる。
そうして部屋を出てすぐ、廊下にはローブのフードを深くかぶった魔道士の老婆が二人待ち伏せていた。その隣にはさきほどの騎士たちがいる。彼らが腰に剣を携えていることから、恐らく万が一のときの護衛だと分かる。だが、こうも重装備で来られると、なにやら物々しいことが起きるかのように思えた。
それからベルティーナはサロンに通された。
そこに踏み入るや否や、風もないのに窓ガラスが音を立てて揺れ始めたのである。
「到着したようで……」
後ろに控えていた魔道士の老婆が、嗄れた声でそう告げる。
それから間もなく──遠くで扉が開く音が聞こえた後、サロンを照らしていた燭台の炎が揺らぎ、すっと消え去った。
やがて、大理石の床の上をカツカツと歩む、小気味のよい音が近づいてくる。
男も女も使用人たちは皆、俯いている。だが、騎士は腰に携えた剣を握り、二人の魔道士は杖を握り、緊急時に備えていつでも抜刀できるように身構えていた。
やがて足音はぴたりと止まり、妖しい青白い光が扉の隙間から煙のように入ってきた。
「ほぅ……王と王妃はやはり来ぬか。まあいい」
響いた声は淑やかな女性のもの。
ベルティーナは扉の方へ視線をやる。すると、声の主が煙のようにふわりと姿を現した。
扉も開いていないのにどういうことだ。まず、そこに驚いてしまうが、声の主の姿をしっかりと目にして、ベルティーナは唖然とする。
──雪のように白い肌に蒼天の瞳。癖のない艶やかな濡羽色の髪。その側頭には立派な黒い巻き角があり、目元や手の甲には黒曜石を散りばめたかのような鱗がちらほらとある。
彼女の纏う召し物はこれまた上等なドレスだった。ドレスは彼女の髪や巻き角と同じく、黒々とした淑やかなもので、裾に向かうほど目が覚めるような蒼の彩色が広がり、煌びやかな宝石が散りばめられていた。
顔立ちを見る限り、中年に差し掛かる女性と思しい。
「ベルティーナ様、サロンへお移りください。間もなく到着するかと思います」
男の使用人が傅くように言うが、ベルティーナは頷きもせず立ち上がる。
そうして部屋を出てすぐ、廊下にはローブのフードを深くかぶった魔道士の老婆が二人待ち伏せていた。その隣にはさきほどの騎士たちがいる。彼らが腰に剣を携えていることから、恐らく万が一のときの護衛だと分かる。だが、こうも重装備で来られると、なにやら物々しいことが起きるかのように思えた。
それからベルティーナはサロンに通された。
そこに踏み入るや否や、風もないのに窓ガラスが音を立てて揺れ始めたのである。
「到着したようで……」
後ろに控えていた魔道士の老婆が、嗄れた声でそう告げる。
それから間もなく──遠くで扉が開く音が聞こえた後、サロンを照らしていた燭台の炎が揺らぎ、すっと消え去った。
やがて、大理石の床の上をカツカツと歩む、小気味のよい音が近づいてくる。
男も女も使用人たちは皆、俯いている。だが、騎士は腰に携えた剣を握り、二人の魔道士は杖を握り、緊急時に備えていつでも抜刀できるように身構えていた。
やがて足音はぴたりと止まり、妖しい青白い光が扉の隙間から煙のように入ってきた。
「ほぅ……王と王妃はやはり来ぬか。まあいい」
響いた声は淑やかな女性のもの。
ベルティーナは扉の方へ視線をやる。すると、声の主が煙のようにふわりと姿を現した。
扉も開いていないのにどういうことだ。まず、そこに驚いてしまうが、声の主の姿をしっかりと目にして、ベルティーナは唖然とする。
──雪のように白い肌に蒼天の瞳。癖のない艶やかな濡羽色の髪。その側頭には立派な黒い巻き角があり、目元や手の甲には黒曜石を散りばめたかのような鱗がちらほらとある。
彼女の纏う召し物はこれまた上等なドレスだった。ドレスは彼女の髪や巻き角と同じく、黒々とした淑やかなもので、裾に向かうほど目が覚めるような蒼の彩色が広がり、煌びやかな宝石が散りばめられていた。
顔立ちを見る限り、中年に差し掛かる女性と思しい。