呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 魔性の者に対して野蛮そうな先入観を持っていたが、彼女は非常に優しい顔立ちで、気品に満ち溢れていた。

 しかし、なぜ暗闇の中でその姿や色彩がはっきりと見えるのか。それは、彼女が妖しい青白い光を纏っていたからだろう。その周囲には、妖しく光る青い蝶が鱗粉を撒き散らし、踊るようにふわふわと舞っていた。

 初めて目の当たりにした魔性の者──その第一印象は、恐ろしいほど耽美(たんび)で、美しい。ベルティーナは表情には出さずとも、心の中では呆気に取られていた。

 また、美しさは彼女が引き連れてきた召使いと思しき男たちも同じだろう。

 彼らは鰓や翼のような形状の耳を持ち、魚や鳥のような特徴を備えていた。だが、その姿は限りなく人に近く、顔立ちも精悍で……怪物と呼ぶほどの醜さは皆無だった。

「……さて。和平の話を進めようじゃないか。私は王女を迎えに来ただけだ。楽な姿勢を取っておくれ」

 そう言って、彼女がぱちりと指を鳴らしたと同時──青白い光と蝶は消え失せ、燭台の炎は再びぽっと燃え上がった。

 臨戦態勢に入っていた騎士や魔道士や騎士たちは顔を見合わせて頷くと、得物から手を離す。

(……この人が翳の女王?)

 ほぼ無表情ではあるが、心はまだ放心したまま。ベルティーナは幾度か目をしばたたき、翳の女王の姿を見つめた。
 その視線に気づいたのだろう。翳の女王は、妖艶な笑みをふっくらとした唇に乗せ、ゆったりとベルティーナに近づいた。

「おや、お前が王女かい?」
「ええ、そうですが」

 毅然とした口ぶりで答えると、翳の女王は目を丸く開いて幾度も(まばた)きをする。

「何か?」
「いいや。お前、随分肝が据わっているね」
「そうでしょうか」

 いつも通りの、まるで感情のこもらない口ぶりでベルティーナが答える。
 それに対して、翳の女王は驚く顔を暫し続けたが──たちまち溌剌とした笑い声を上げた。しかし、何がそんなに面白いのかは分からない。少しばかり不快に思い、ベルティーナが眉根を寄せると、彼女は笑いを押し殺すように喉を鳴らした。

「ああ、面白い娘じゃないか。気に入ったよ。名を何と申す」
「自ら名乗らないのは無礼ではなくて? それも国を統べる者よね。常識が欠落してるわ」

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