呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~

第5話 憎悪の炎と翳の夜道

断ってほしい。ベルティーナはそう願うが……。

「分かった。承諾しよう」

 穏やかに告げた女王の言葉に、ベルティーナはさらに目を(みは)る。

 なぜ断らないのか……どうして。
 途方もない腹立たしさがベルティーナの胸の中で暴れ回った。しかし同時に、なぜ自分がこんなにもハンナの肩を持とうとしたのか、不思議に思った。

 ……他人なんてどうだっていいではないか。それも会って数時間の相手だ。
 あらゆる疑問が脳裏を巡り、ベルティーナはこめかみを揉む。

 だが、その答えはすぐに浮かんだ。
 この国に敗れた異国の民。王城に仕える労働力……自分を育てた賢女と重なり合ったのだろう。十二歳の自分は、去りゆく賢女に対して何もできなかった。
 だが、今は十七歳。知恵もつき、幾分か聡くなったと思う。だからこそ、彼女を放っておけず、自然と肩を持ったのだろう。それに、きっとこの男の使用人に関しても、上の者に命じられたのではないかと推測は容易い。

 上とは……つまり、国を牛耳る存在だ。
 それを思った途端、ベルティーナの心には憤怒の炎が激しく揺らいだ。

 確か女王は言った。「王と王妃はやはり来ぬか」と……。

 普通、娘の嫁入りともなれば、王も王妃も顔を出すのが当然と思しいが、この席にベルティーナの両親は来なかった。それどころか、大臣など政に携わる者をよこすわけでもなく、ただの使用人と騎士と魔道士だけが同席した。

 自分は血の繋がる者にやはり愛されていない。〝蓋をされた臭いもの〟──それは、自分が投げやりに勝手に思っていたことだったが、事実なのだろう。

 ベルティーナは青筋の浮き立った額に手を当てた。

 戦争ばかり繰り広げては領地を奪い、挙句の果てに翳りの国の報復を受け、呪われた王女を閉じ込めた。吸収した国の民を労働力としたが、さも簡単に切り捨てる。そうして王族たちは享楽を貪り、のうのうと暮らして怠惰な生活を送る。人の命を愚弄する。こんなふざけた国があってよいものか。

(この国は必ず報復を受けるべきだわ。いいえ、違う。その報復を……私が下す。私を呪った妖精の言葉通りにしてやるべきだわ。それが、きっと私が生まれた意味)

 そう悟ったと同時、ベルティーナの口角はニィっと釣り上がった。
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