呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 息子……つまり、自分の婚約者だが、果たしてどんな人物か。ベルティーナには想像できなかった。だが、この女王の子息と考えると、きっとおぞましい怪物ではないだろうと推測は容易い。

(大丈夫、きっと顔は悪くない。私は彼とうまくやって、上手に立ち回りながら、報復の糸を紡がないと……)

 ベルティーナは心の中で小さく呟き、近づく紫水晶の城を鋭い瞳で見据える。その冷たいアイスブルーの眼差しには、秘めた決意が揺れていた。


 ***

 予定通り、空が白み始めた頃合いに、ベルティーナたちはナハトベルグ城に辿り着いた。

「長旅ご苦労様です」

 労いの言葉を言って、御者の男は馬車のドアを開け、女王に手を差し出す。
 女王は優雅な所作でその手を取り、馬車から降りた。
 そうして御者は今度はベルティーナに手を差し出すが……。

「いいえ、結構よ。降りられるわ」

 すぐに拒んだベルティーナは、すとんと馬車から降りた。

「これまた失敬」

 それだけを告げると、御者は今度はハンナに手を差し出し、彼女を下ろした。

「さて。細々とした話は後日でいいか。お前たちも疲れているだろうから、今日は早めに休むといい。だが、我が息子とお前につけるこちらの侍女だけは……」
 と、女王が話している最中だった。

「女王様ー! おかえりなさいませー!」

 随分と元気溌剌とした少女の声が二つ重なって聞こえた。

 ベルティーナとハンナは、声がした方に同時に顔を向ける。だが、その声の主たちの姿を見て、ベルティーナの思考はぴたりと止まってしまった。

 ぶんぶんと手を振って駆け寄ってきたのは、漆黒のエプロンドレスを纏った二人の少女だった。

 ──ふわふわと長い髪は、夏の夜空に似た藍色。それを緩く二つに結っており、星屑のような白銀《ぎん》の瞳を輝かせて、彼女たちはやって来た。喩えるのであれば、まるで愛らしい人形のよう。

 年齢は自分より四つ五つも年下と思われる、まだ稚さを残す可憐な少女たちだった。
 だが、ベルティーナの目を一番に惹いたのはまったく別の部分だった。

 彼女たちの頭頂部には獣の耳らしきものがつんと立っており、臀部からはモフモフとした尾が揺らいでいるのだ。何の生き物を主体としているのかはベルティーナには分からない。だが、この得体の知れぬモフモフがとてつもなく愛らしいと思えてしまう。

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