呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
(な、な……なにこの生き物は!)

 初めて見る生き物だ。眠い目を限界まで持ち上げたベルティーナは、慌ててハンナの方に視線をやる。

「ね、ねえ貴女。あのモフモフの耳と尾の生き物って……」

 ──何かしら、と小声で()くと、ハンナは小首を傾げた。

「どう見ても猫だと思いますが……」

「……ね、猫ですって?」

 その名は幾度も本の中で見かけたことだろう。
 気分屋ではあるが、甘えると喉を鳴らす愛らしい仕草を見せる生き物で……。一度でいいから見てみたいと思い続けていた生き物で……。

(猫、猫。これが猫ですって?!)

 興味が高ぶり、鼓動が高鳴るが、それでも表情には出さないように。ベルティーナは彼女たちをじっと見据える。
 しかし、その視線にすぐに気づいたのか、彼女たちはすぐにベルティーナとハンナの方に視線を向け、にっこりと無垢な笑顔を咲かせて控えめに手を振った。

「見てよロートス! 本当に人間の王女様なの! 私たちよりもお姉さん! とても綺麗!」
「すごいわイーリス! 王女様だけじゃなく、もう一人、人間のお姉さんがいる!」

 キャッキャと無邪気にはしゃぐ二人を見て、ベルティーナはすぐにまたハンナの方を向く。

「ベルティーナ様、どうなさったのですか。なんだかそわそわして……」
「……どんな反応をしたらいいか分からなくて、妙に不快に思って困っているのよ」

 こんな胸が高鳴ったことなどあっただろうか。落ち着け……とベルティーナは自分に言い聞かせながら俯いた──そのときだった。

「こらこら、はしゃいでいないで、部屋に案内しておあげなさい! 王女と付き人はろくに眠ってさえいないわ。急ぎ入浴と就寝の準備をなさい!」

 女王は呆れつつもぴしゃりと言う。すると、二人の少女は慌ててベルティーナとハンナの元に駆け寄ってきた。

 ***

 それから、双子の猫の少女たちに案内され、ベルティーナは一つの部屋に通された。
 そこは、漆黒と紫を基調とした部屋。天蓋付きのベッドのほか、棚やソファなど最低限の調度品が設置されていた。
 色使いは暗めだが、ベルティーナはすぐにこの部屋が気に入った。単純に、部屋を基調とする紫が自分が一番好きな色ということもあるだろう。

「お気に召しました?」なんて双子の少女たちにキャイキャイと問われ、ベルティーナは素直に頷く。

< 29 / 164 >

この作品をシェア

pagetop