呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 ……どうやら、この少女たちがベルティーナの侍女らしい。
 彼女たちは「姉のイーリス」「妹のロートス」と自らを名乗ったが、顔も声も装いだって何もかも同じ。まったく判別がつかなかった。

 しかし、このかしましさにはさすがに目眩を覚えてしまい、ベルティーナはここでも誰の手も借りず一人で入浴を済ませた。
 そうして入浴を終え、部屋に戻ると、そこには誰もいなかった。テーブルの上を見ると、ハンナからの置き手紙があり、綺麗な書体で「お休みなさいませ」と綴られていた。

 その隣には、湯気の立つ温かい飲み物が添えてあり、ベルティーナはソファに座してカップに手を伸ばした。

 ハーブティーだろうか。すんと鼻を鳴らすと、林檎によく似た甘い芳香が漂っていることから、カモミールティーだと分かる。
 カモミールは安眠や鎮静効果がある。随分と気を利かせてくれたものだと、ベルティーナがお茶を啜った途端──部屋の奥でガサリと物音がした。

 何事か……。
 慌ててベルティーナが振り向くと、そこには一人の青年が立っていた。

 服装は首元に灰色の毛皮のついた黒のコート。簡素なシャツを下に着込み、黒の長靴を履いていた。毛皮のついた装いのせいもあるだろう。彼から、少しばかり荒々しい印象を感じてしまう。

 ──艶やかな濡羽色の髪に、深い森を彷彿させるビリジアンの瞳。その顔立ちは精悍で……。自分とは頭一つ以上も高い、長身な青年だった。

 女王同様に、彼の目元や手の甲には鱗らしきものが散らばっており、さらに似た点は巻き角だ。だが、それは女王の角よりも幾分か逞しく大きなものだった。しかし、異なる点が一つある。彼の臀部には硬そうな鱗に覆われた尾があった。

 ちょうど朝日が昇り始めた頃──その巻き角や鱗は、まるで黒曜石のように妖しい青い光を反射していた。
 きっと、彼が翳の女王の息子で王子……自分の婚約者と、ベルティーナはひと目見てすぐに理解した。なにしろ、顔立ちがまったく違うにしても、同じ色と形状をした角と鱗を持つ部分が女王と似すぎていたからだ。


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