呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
第7話 夜明けの寝室と巻き角の婚約者
女王を見たときも思ったが、元は何の生き物だろうと思う。鱗があることから爬虫類のようだが、角を持つ時点で疑問符が浮かぶもので、さっぱり分からない。
「何用かしら……」
まず、どこから入ってきたかが気になるが、ベルティーナは動じないよう、まったく感情のこもらない声で彼に訊いた。
「今日来るって聞いてたし。まだ起きているかなって見に来ただけ。俺もさっき帰ってきたばかりだけど……」
その声は低く掠れたものだった。
しかし、あまり感情が読み取れない、あまりに単調すぎるもので、ベルティーナは心の中で驚嘆した。
少しばかり強面と言ってもいいほど精悍なこの顔だ。その上、毛皮のついた衣類を纏い、図体が大きなことから、乱雑な性質かと思ったものだが……彼は極めて落ち着いていたのだ。
さらに言えば、ここは寝室だ。少しばかり野蛮そうなこの容姿だからこそ、いきなり浅ましいことをされるのではないかと杞憂したが、この話しぶりから察するに、そういったつもりはないだろうと憶測が立つ。
「就寝前の淑女の部屋に? 貴方、どうやって入ってきたの?」
──そもそも何者?
あえて訊いてやれば、彼はベルティーナに歩み寄り、部屋の奥を指し示した。
「ここ、夫婦の部屋だからな。そこを抜けると俺の部屋と隣り合ってる。まあ、俺、あんたの婚約者だけど……」
彼の示した先に視線をやると、黒と紫の布が混ざったフリルのようなベールがあった。
この部屋に通されてすぐに入浴した。だから、ろくに部屋の間取りなんて見なかったが、そこが通路になっていたとは……。
「そう……。私はベルティーナと申すわ。貴方、名前は?」
変わらず淡々とした口調でベルティーナが訊くと──
「ミラン」
と、名乗るだけ名乗って、彼は黙ってしまった。
なんとも、つかみどころがないと率直に思った。いや、会話さえ続きそうにない。
ベルティーナは彼に構わずハーブティーを啜り始めた途端だった。
「……なあ」
ミランと名乗った彼は、ベルティーナを一瞥もせずに会話を切り出した。何を言い出すか……と思うや否や、彼はどこか嬉しそうに唇を綻ばせる。
「あんたのこと、ベルって呼んでいい? あと……俺のこと、覚えてる?」
「え……?」
ベルティーナはカップから口を離し、すぐに眉に皺を寄せた。
「何用かしら……」
まず、どこから入ってきたかが気になるが、ベルティーナは動じないよう、まったく感情のこもらない声で彼に訊いた。
「今日来るって聞いてたし。まだ起きているかなって見に来ただけ。俺もさっき帰ってきたばかりだけど……」
その声は低く掠れたものだった。
しかし、あまり感情が読み取れない、あまりに単調すぎるもので、ベルティーナは心の中で驚嘆した。
少しばかり強面と言ってもいいほど精悍なこの顔だ。その上、毛皮のついた衣類を纏い、図体が大きなことから、乱雑な性質かと思ったものだが……彼は極めて落ち着いていたのだ。
さらに言えば、ここは寝室だ。少しばかり野蛮そうなこの容姿だからこそ、いきなり浅ましいことをされるのではないかと杞憂したが、この話しぶりから察するに、そういったつもりはないだろうと憶測が立つ。
「就寝前の淑女の部屋に? 貴方、どうやって入ってきたの?」
──そもそも何者?
あえて訊いてやれば、彼はベルティーナに歩み寄り、部屋の奥を指し示した。
「ここ、夫婦の部屋だからな。そこを抜けると俺の部屋と隣り合ってる。まあ、俺、あんたの婚約者だけど……」
彼の示した先に視線をやると、黒と紫の布が混ざったフリルのようなベールがあった。
この部屋に通されてすぐに入浴した。だから、ろくに部屋の間取りなんて見なかったが、そこが通路になっていたとは……。
「そう……。私はベルティーナと申すわ。貴方、名前は?」
変わらず淡々とした口調でベルティーナが訊くと──
「ミラン」
と、名乗るだけ名乗って、彼は黙ってしまった。
なんとも、つかみどころがないと率直に思った。いや、会話さえ続きそうにない。
ベルティーナは彼に構わずハーブティーを啜り始めた途端だった。
「……なあ」
ミランと名乗った彼は、ベルティーナを一瞥もせずに会話を切り出した。何を言い出すか……と思うや否や、彼はどこか嬉しそうに唇を綻ばせる。
「あんたのこと、ベルって呼んでいい? あと……俺のこと、覚えてる?」
「え……?」
ベルティーナはカップから口を離し、すぐに眉に皺を寄せた。