呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~

第7話 夜明けの寝室と巻き角の婚約者

 女王を見たときも思ったが、元は何の生き物だろうと思う。鱗があることから爬虫類のようだが、角を持つ時点で疑問符が浮かぶもので、さっぱり分からない。

「何用かしら……」

 まず、どこから入ってきたかが気になるが、ベルティーナは動じないよう、まったく感情のこもらない声で彼に()いた。

「今日来るって聞いてたし。まだ起きているかなって見に来ただけ。俺もさっき帰ってきたばかりだけど……」

 その声は低く掠れたものだった。
 しかし、あまり感情が読み取れない、あまりに単調すぎるもので、ベルティーナは心の中で驚嘆した。

 少しばかり強面と言ってもいいほど精悍なこの顔だ。その上、毛皮のついた衣類を纏い、図体が大きなことから、乱雑な性質かと思ったものだが……彼は極めて落ち着いていたのだ。

 さらに言えば、ここは寝室だ。少しばかり野蛮そうなこの容姿だからこそ、いきなり浅ましいことをされるのではないかと杞憂したが、この話しぶりから察するに、そういったつもりはないだろうと憶測が立つ。

「就寝前の淑女の部屋に? 貴方、どうやって入ってきたの?」

 ──そもそも何者?
 あえて()いてやれば、彼はベルティーナに歩み寄り、部屋の奥を指し示した。

「ここ、夫婦の部屋だからな。そこを抜けると俺の部屋と隣り合ってる。まあ、俺、あんたの婚約者だけど……」

 彼の示した先に視線をやると、黒と紫の布が混ざったフリルのようなベールがあった。
 この部屋に通されてすぐに入浴した。だから、ろくに部屋の間取りなんて見なかったが、そこが通路になっていたとは……。

「そう……。私はベルティーナと申すわ。貴方、名前は?」

 変わらず淡々とした口調でベルティーナが()くと──

「ミラン」
 と、名乗るだけ名乗って、彼は黙ってしまった。

 なんとも、つかみどころがないと率直に思った。いや、会話さえ続きそうにない。
 ベルティーナは彼に構わずハーブティーを啜り始めた途端だった。

「……なあ」

 ミランと名乗った彼は、ベルティーナを一瞥もせずに会話を切り出した。何を言い出すか……と思うや否や、彼はどこか嬉しそうに唇を綻ばせる。

「あんたのこと、ベルって呼んでいい? あと……俺のこと、覚えてる?」
「え……?」

 ベルティーナはカップから口を離し、すぐに眉に皺を寄せた。

< 31 / 164 >

この作品をシェア

pagetop