呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 ──さすがに寝すぎたわね。
 そう思ったが、すぐにベルティーナは首を振った。

 翳りの国は人の世界とは違い、昼夜が真逆の生活だと、確か女王は言っていた。つまり、ここでは真夜中に当たる頃合いか……。

 それを思い出し、ベルティーナは再びベールを閉じてベッドの中に戻った。

 これまでと言えば、日の出とともに起きてすぐに薬草畑の手入れをしていた。あまりに規則正しい早朝型の生活だ。まず、この国に慣れるには、生活時間帯をがらりと変えるところから始めなくてはならないだろう。
 まさに真逆……と思うと、少し不安に思い、ベルティーナはため息をこぼす。

 しかし、一度目を覚ましてしまうとなかなか眠くはならなかった。

(もう、いっそ起きていようかしら……)

 早々に諦めて、ベルティーナが身体を起こした途端だった。きぃと、部屋の扉が開く音が聞こえ、彼女はすぐに天蓋のベールをめくった。

「……あっ」

 驚いた声を上げたのは、愛らしい少女のもの。そこにいた姿に、ベルティーナは目を丸く開く。

 ──夏の夜空のような藍の髪に、星の光のような白銀(ぎん)の瞳。ピンと尖った猫の耳にふわふわの尻尾。自分に宛てられた侍女の片割れだった。

 城に来たときの姿といえば、お仕着せのエプロンドレスを纏い、髪の房を二つに分けてふんわりと結っていたものだが、今の彼女は髪を下ろし、濃紺のナイトドレスを纏っていた。

 イーリスとロートスと名乗ったことは覚えているが、さすがにまだ見分けなんてつかない。
 はて……どちらだか……。ベルティーナが目を細めると、彼女は慌てた様子で手をばたつかせた。

「ごめんなさい! お手洗いに起きたついでにカップを回収しておこうって……その」

 ──起こしちゃいました? なんて怯えながら()かれ、ベルティーナはすぐに首を振るう。

 自分が起こしたわけではないと知ってほっとしたのだろう。彼女は獣の耳をくたりと下げ、心底安堵した表情を見せた。

 ピコピコと動く耳に、ふわふわの尻尾。やはり何度見ても可愛らしい生き物だと思ってしまう。ベルティーナはつい彼女をじっと見据えてしまうが、その視線に射貫かれた彼女は少しばかり居心地悪そうな仕草をした。

「あのぅ、ロートスは何か変ですか?」

 一人称が名だからこそ、これでどちらかが明確になった。
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