呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 確か妹の方だったはず……と思いつつ、ベルティーナは首を振るう。

「いいえ、まったく。貴女たち、とても愛らしい耳と尾を持っていると思って、つい目が向いちゃうだけよ」

 触ってみたい願望は黙っておき……ベルティーナが素直に告げると、ロートスは驚いたのか、頬を赤らめ目を丸く(みは)った。

「……で、カップの回収に来たのでは?」

 彼女の用件を指摘すると、ロートスは我に返り、丁寧な所作でカップを取った。

「ベルティーナ様、もしかして眠れないのです?」
「ええ。人の世界では今が起きて活動している時間ですもの。当然よ」
「わぁ、すごい。お昼に起きてるってすごい……」

 何を当たり前のことを言っているのだろうかと思うが、夜行性の者からすれば、日中に動き回っていることが不思議に思えるのだろうか。
 だが、それを言ったら、こちらだってそう思う。ベルティーナは一つため息をこぼし、やれやれと首を振った。

「確かに貴女たちからしてみれば、人はおかしな生き方をしているでしょうね。呪われているとはいえ、私は人と変わらないわ。しかし、困ったわね。貴女たちの起床時間は何時くらい?」
「ロートスたちは、日没前の午後四時前には必ず起きますけど。でも、ベルティーナ様はゆっくり休んで結構ですので。何より、睡眠はきちんと取らないと夜に響きます」

 咎めるように言われてしまい、ベルティーナは煙たげに顔をしかめた。

 ましてや、こんな小さくふわふわな生き物に……。きつく突っぱねるような切り返しをしてやりたいところだが、おかしなことにそういった気になれない。

 だが、確かに彼女の言うことにも一理あるだろう。
 これからはずっとこの国にいることになる。早急に慣らす方が自分のためだと思った。

 ……いずれ、あの腐れた国に報復を与えるのだ。しっかりとした計画を立てるためにも、倒れてなんかいられないだろう。

 親指の爪を噛んで思考を巡らせるベルティーナが妙に思えたのだろうか。ロートスは小首を傾げ、不思議そうにベルティーナを見つめた。

「どうしたのです?」

「いいえ、別に何も……まあ、眠るように努めるわ」
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