呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 少しばかり呆れて言うと、ロートスは柱時計の方を向いた。
 やはり時間を忘れていたのだろう……。ロートスは時計を見るなり驚いた顔をして、立ち上がり一礼すると、すぐに部屋から出て行った。

 まるで嵐が過ぎ去ったかのようだった。一人きりに戻ると、ようやく心が凪ぐもので、胸を撫で下ろしたベルティーナはベッドに向かった。

(不思議な感覚。だけど、人と関わるのは存外疲れるものね。あらゆる点で先が思いやられるわ)

 心の中で独りごちて、床に就いたベルティーナは瞼を伏せた。

 ***

 それからベルティーナが目を覚ましたのは、夕暮れ時。
 ベッドから出たときには、すっかり陽が傾いており、空は橙に色づき始めていた。

(しかし、この生活は本当に慣れるまでは大変そうね……)

 そんなことを思いつつ、今、ベルティーナはアンダードレス一枚で、呆然と三人の侍女の後ろ姿を眺めていた。

「ベルティーナ様ぁ~何色がお好きなでしょうか!」

 同時に声を出したのは双子の侍女、イーリスとロートスだった。
 彼女たちは獣の耳をピコピコと動かし、クローゼットの前でふわふわとした尻尾を揺らしている。一方、人の世界から共に来た侍女ハンナは、ドレッサーの前でおしろいやルージュなどの化粧品を一式準備していた。

 王女らしい扱いなどこれまでろくに受けてこなかったのだから、やはり一日二日で慣れるものではない。ベルティーナは目頭を押さえ、「紫色」とぽつりと答えた。

 そうして間もなく、二人の侍女が目を輝かせて一着のドレスを持ってきた。

 しかし、それを見るなり、ベルティーナは顔を引き攣らせる。

 紫──確かに紫ではあるが、それは黒と紫を基調としたやや奇抜なコルセット式のバッスルドレスだった。いや、これをバッスルドレスと呼んでいいかも分からない。随分なアレンジがふんだんに施されたものだったのだから……。

 背中の布地が明らかに少ないだろう。それに、ドレスの裾は左右非対称に裁断され、くしゅくしゅとしたフリルがたくさんあしらわれている。しかし……左右非対称の片方がやけに短い。これでは背と脚を大きく露出することになる。いや、それ以上に目立つのは、コルセット部分に施された蝶の翅飾りだろう。

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