呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~

第9話 翠玉と紅玉の光に秘めた誓い

 ──双子の侍女の話によると、ミランはすでに支度を済ませ、部屋で待機しているらしい。

「ここは夫婦の部屋。この通路を抜ければミラン様の部屋に辿り着きますので」

 二つの部屋を繋ぐ通路のベールを持ち上げ、双子の片割れが可愛らしい微笑みを浮かべながら言う。
 しかし、昨晩彼が訪ねてきたこともあり、すでに知っている。とはいえ、わざわざそれを言うのもいかがなものかと思い、ベルティーナは素っ気なくも礼を言った。

 そうして、暗い通路を歩むこと数秒。すぐに向こう側のベールに辿り着く。

 それを持ち上げた先に広がっていた部屋は、自分に宛てられた部屋と同じ間取りで、似たような調度品が設置された部屋だった。
 大きな違いと言えば、カーペットの色くらいだろう。自分に宛てられた部屋は濃い紫だが、彼の部屋は、明朝見た彼の瞳を連想させる碧みを含む緑だった。

 無表情のまま彼の部屋を眺めること間もなく、「おはよう」と声をかけられ、視線を移すと、ソファに座っていたらしいミランが立ち上がり、ベルティーナの方に歩み寄ってきた。

 ──外は夕暮れ時なのに。
 彼が朝の挨拶をしたことに少しばかり違和感を覚えつつ、ベルティーナは会釈だけした。

「行こう。あまり遠くまでは行けないけど、城の中と城の周りでも案内する」

 平坦な調子で言って、ミランはすっとベルティーナに手を差し出すが──

「心遣い、大変ありがたいけれど、その……手なんて差し出さなくて結構よ」

 ベルティーナはやや戸惑いながら拒否した。

 化粧を施される際やドレスの着付けに触れられる際はやむを得ないと思ったが、これはまた違うだろう。やはり、他人に触れられることに激しく抵抗を覚えてしまう。それも、魔性の者とはいえ異性なのだからなおさらだ。何か言われるだろうか……と、少しばかり身構えたが、彼は一切顔色を変えなかった。

 それどころか、彼はこちらにまったく視線を向けもしない。
 怒らせたか……そう思ったが、「行こう」と平坦な調子で言って、彼は先導し、部屋の扉を開いた。

 ──昨晩、部屋に通される段階で分かってるだろうけど、俺たちの部屋があるここは最上層階。近くには俺の母親……まあ、女王の私室もあるけど立ち入り禁止。それから中層階には謁見の間がある。それで下層には使用人や護衛たちの詰め所や部屋があって……。

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