呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 黒の大理石の上に深紅のカーペットが伸びる廊下を歩みながら、ミランは各所の説明をしてくれた。

 この城は外からの見かけ通り、かなり広かった。それでも、各層への移動は階段だけでなく、昇降機が二機も設置されていることから、行き来に苦労はないと思われる。
 昇降機に乗り込み、今度は下層へ……。機内の壁に描かれた金の紋様にミランが手を翳すと、昇降機は緩やかに下降を始めた。

 昨日も部屋に来たときにこの光景は見たが、なんとも不思議に思う。

「この昇降機は何で動いてるのかしら?」

 少しばかり興味を持って()くと、彼は「魔力」とだけ答えた。
 しかしながら、淡々と話す自分が言うのもなんだが、ミランは感情が欠けているように思えてしまった。

 女王や侍女たち……他の者とは明らかに彼は何か違うのだ。何を考えているかもまったく分からないし、表情に出ない。それに、視線もほとんど合わせてくれない。

 必要以上の会話がない方が気楽と思えるが、果たしてうまくやっていくためにこれでいいだろうかと……少しばかりベルティーナは悩ましく思った。

 そうこう考えているうちに、下層まで辿り着き、昇降機の柵が開くと、ミランはベルティーナに先に出るよう促した。

 女性を優先し、丁重に扱おうとする所作はとてつもなく紳士的に思うが、やはり何を考えているかはまったくつかめない……と、そんなことを思いつつ、昇降機から降りた途端だった。

「……おや、ミラン?」

 朗らかに声をかけてきたのは、ミランとはまた違った形状の角を生やした者だった。

 自分と恐らく歳が変わらないほどの少女だろうと、ベルティーナは思う。
 単純に背丈が自分と変わらないことや、顔立ちから憶測できるだけの話だが……。

 短く揃えられた赤髪に、漆黒のジレとシャツ……と、男物の衣類を纏ったその姿は、まさに男装令嬢といった勇ましさ。しかし、桜色の唇に水紅色の長い睫と、麗しく気品のある容姿から女性的な印象も強く感じる。その瞳の色と言えば、灰色に橙が混ざった神秘的なもので……。

(とても綺麗な人……)
 
 ベルティーナは自分たちに近づいてくる彼女をじっと見つめた。

「リーヌ。ちょっと案内中……」

 依然として彼は平坦な調子で言うが、その表情は随分と綻んでいた。
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